「掛け捨てはお金を捨てている」は本当?保険は何のために入るのかを整理してみた
営業トーク
「掛け捨てって、何もなかったらお金を捨てることになりますよ」
結論
保険は払ったお金を増やして返してもらう商品ではなく、自分の貯金では背負いきれない損失に備えるためのものです。だから本当に要るのは「低確率・大損失」だけ——自動車保険(車に乗る人)、火災保険(持ち家の人)、生命保険(死んだら家族が路頭に迷う人)。それ以外は、まず貯蓄で対応できないかを考えてください。
「掛け捨ての保険って、何もなかったらお金を捨てることになりますよ」
「だったら、保険料が戻ってくる貯蓄型のほうがいいですよね」
たしかに、そう言われると貯蓄型のほうが得に聞こえます。
でも、ちょっと待ってください。
そもそも保険って、お金を増やすためのものでしたっけ?
先に、この記事の結論
この記事で言いたいこと
保険の役割
保険は払ったお金を増やして返してもらう商品ではありません。自分の貯金では背負いきれない損失に備えるためのものです
だから考える順番は
「保険料が戻ってくるか?」ではなく、「そのリスクは、保険で備えるべきリスクなのか?」
判断の物差し
確率と損失の大きさの2つで考える。保険が要るのは「低確率・大損失」だけです
結論
当てはまるのは自動車保険(車に乗る人)・火災保険(持ち家の人)・生命保険(死んだら家族が路頭に迷う人)。ほかは貯蓄で対応できないか先に考えます
「掛け捨てのほうが得」と言いたい記事ではありません。掛け捨てにも貯蓄型にも、それぞれの性質があります。ただ、「戻ってこないから損」という一言だけで決めるのは違う、という話です。
保険は「助け合い」の仕組みです
まず、保険という仕組みそのものを見ておきます。
生命保険文化センターの説明はこうです。
大勢の加入者があらかじめ公平に保険料を負担しあい、「もしも」のことが現在に起きたときに給付を受ける仕組み (生命保険文化センター「生命保険とは」)
大勢で少しずつ出し合って、起きてしまった人に渡す。 これが保険です。
ここで大事なのは、多くの人にとって「もしも」は起きないということ。起きないからこそ、少ない保険料で大きな保障が成り立ちます。
実際は
つまり保険は、最初から「多くの人は受け取らない」ことを前提にした仕組みです。 「払った分が戻ってくる」ようにすると、その仕組みは成り立ちません。
どのリスクを保険で備えるか。4象限で考える
では、何でもかんでも保険に入ればいいのか。そうではありません。
リスクは、2つの軸で整理できます。
- 確率:どれくらいの可能性で起きるか
- 損失:起きたとき、いくら失うか
この2つで4つに分けると、備え方が見えてきます。
図解① 保険を使うのは、4マスのうち1つだけ
4マスのうち、保険が力を発揮するのは左下(低確率・大損失)だけです。ここを押さえておくと、勧められた保険が本当に必要かどうかを自分で判断しやすくなります。
4マスのうち、保険が必要なのは1つだけ。 これがこの記事の骨格です。順番に見ていきます。
① 低確率 × 小損失 → 貯蓄で備える
めったに起きないし、起きても痛手は小さい。
数万円で収まる出費のために、毎月保険料を払い続ける必要があるかどうか。「それ、自分の貯金から出せませんか?」と一度考えてみる領域です。
もちろん、家計に余裕がなければ数万円でも痛いという場合はあります。一律に「保険は不要」と決まるわけではありません。
② 高確率 × 小損失 → 貯蓄で備える
わりとよく起きるけれど、1回あたりの損失は小さいもの。
ここは考え方を変えたほうが分かりやすいかもしれません。よく起きることは、保険会社もそれを見込んで保険料を決めます。
つまり、高い確率で起きることに保険をかけると、その分だけ保険料も上がります。それなら自分でお金を用意しておくほうが、手数料の分だけ有利という見方ができます。
補足
「起きる頻度が高いものほど、保険料は高くなる」。当たり前のようですが、勧められている最中は意外と忘れます。
③ 低確率 × 大損失 → 保険で備える
ここが保険の本丸です。 この記事でいちばん伝えたいところ。
たとえば、こういうものです。
- 一家の収入を支えている人が亡くなる
- 事故などで高額な賠償責任を負う
- 住宅が火災などで重大な損害を受ける
共通しているのは、
起きる確率は高くない。でも、起きたら自分の貯金ではどうにもならない。
貯金でどうにもならないから、大勢で出し合って備える。保険はこのためにあります。
「損失が大きい」とは、どういう意味か
ここは誤解されやすいので、はっきりさせておきます。
このブログでいう「大損失」は、数十万円の出費のことではありません。
CHECK
数千万円といった、個人の貯蓄では吸収しきれず、生活や人生設計そのものが崩れてしまうレベルの損失。
「30万円かかったら大変だから保険に入る」と、「一家の大黒柱が亡くなって数千万円足りなくなる」は、同じ「大変」でも意味がまったく違います。
ただし、いくらから「大きい」と感じるかは、貯蓄額・収入・家族構成・公的保障によって変わります。「◯万円以上なら保険」という機械的な線引きはできません。
④ 高確率 × 大損失 → そもそも近寄らない
最後の1つが、この記事の特徴的なところです。
損失が大きいなら保険で備えればいい、と考えたくなります。でも高い確率で大きく損をするものについては、発想を変えてください。
実際は
高確率で大損するなら、保険を掛ける前に、そもそも近寄らない。
そもそも保険会社も、高確率で大損害が出るものは引き受けません。引き受けたとしても、保険料は損失に見合うだけ高くなります。保険で解決できる問題ではないわけです。
「リスクは保険でカバーすればいい」と考える前に、そのリスクを取ること自体を選ばないという選択肢があります。
ここで、営業トークに戻ります
4象限を頭に入れて、もう一度あの言葉を見てみます。
営業トーク
掛け捨ては、何もなかったらお金を捨てることになりますよ
CHECK
保険の目的は、払ったお金を回収することでしたか?
実際は
保険の目的は、自分では背負えない損失を、小さな負担に置き換えることです。
「戻ってこない」ことと、「入る意味がない」ことは、別の話です。
掛け捨ての保険料は、何に使われているのか
具体的に見てみましょう。
月5,000円の保険料を20年間払ったとします。
20年間なにも起きなければ、この120万円は戻ってきません。「捨てた」と言いたくなる気持ちは分かります。
でも、こういう見方もできます。
120万円を払って、20年間ずっと、大きなリスクに備えていた。
分かりやすいのが自動車保険です。1年間、無事故で過ごしたとします。そのとき、
「事故を起こさなかったから、今年の保険料は全部ムダだった」
とは、あまり考えないはずです。事故が起きなかったこと自体が、いちばん良い結果だからです。
生命保険も同じです。何も起きずに保険料だけ払って終わった——それはいちばん良い結末です。
保険料は「捨てるお金」ではなく「リスクを移す費用」
言い方を変えます。
CHECK
保険料は「お金を捨てる費用」ではなく、 自分では背負えない損失を、保険会社に引き受けてもらうための費用です。
自分で背負ったままだと、起きたときに人生が崩れる。だからお金を払って、その重さを他人に移しておく。保険はそういう仕組みです。
これを踏まえると、掛け捨ての「安さ」の意味も変わってきます。生命保険文化センターはこう書いています。
定期保険は、終身保険や養老保険に比べて少ない保険料で多くの保険金を準備できます。 (生命保険文化センター「定期保険」)
同じ保険料なら、掛け捨てのほうが大きな保障を用意できる。 リスクを移すという目的だけで見れば、これは効率が良いということです。
では「戻ってくる保険」はどう考えればいい?
ここで公平に書いておきます。
貯蓄型保険がすべてダメ、という話ではありません。 保障と貯蓄を組み合わせた商品として、そういう性質があるというだけです。
問題は、「戻ってくるから得」という一言だけで決めてしまうことです。
営業トーク
掛け捨てなら何も残りません。でも、この商品なら将来お金が戻りますよ
CHECK
そのために、掛け捨てよりいくら多く払っていますか?
比べるべきなのは「戻ってくる金額」だけではありません。
- 払込保険料の総額
- 保障内容と保障期間
- 解約返戻金と返戻率
- 途中で解約したときの金額
- 資産形成として見たときの水準(年利に直すといくらか)
このあたりの計算方法は、「貯蓄型保険なら安心してお金を貯められます」は本当? で数字を出して確認しています。あわせて読んでみてください。
保険と投資は、目的が違います
このブログの基本的な考え方を書いておきます。
| 目的 | |
|---|---|
| 保険 | 自分では背負えない大きな損失に備える |
| 投資 | 資産を増やす |
この2つは、目的が違うので分けて考えるほうが分かりやすくなります。
保障が必要なら、必要な額の保障を用意する。お金を増やしたいなら、資産形成の方法として別に考える。
補足
投資には元本割れのおそれがあり、将来のリターンは保証されません。金融庁も、株式や投資信託などは「預貯金よりも高いリターンを期待することはできますが、元本割れのおそれもあります」と説明しています(金融庁「投資の基本」)。「投資のほうが必ず得」ということではありません。
その前に、公的な保障を確認する
民間の保険を考える前に、もう1つやることがあります。
日本には公的な保障があり、そこですでにカバーされている部分があります。足りない分だけを民間で用意すると考えると、必要な保障額はかなり変わります。
| 制度 | どんなときに |
|---|---|
| 高額療養費制度 | 医療費の自己負担が上限額を超えたとき、超えた分が支給される |
| 遺族年金 | 亡くなった方に生計を維持されていた遺族が受け取れる(遺族基礎年金・遺族厚生年金) |
| 傷病手当金 | 業務外の病気やケガで働けないとき(会社員などの健康保険) |
たとえば傷病手当金は、条件を満たせば標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2が、支給開始日から通算1年6か月を上限に支給されます(全国健康保険協会)。
ここに注意
公的保障の内容は変わります。 高額療養費制度は2026年8月から見直しが行われ、月額の上限額の変更と年間上限額の新設が実施されています(厚生労働省)。 自分の年齢・所得での金額は、必ず公的機関の最新情報で確認してください。営業資料の説明だけで判断しないことをおすすめします。
営業されたら、この質問をしてください
「掛け捨てはもったいないですよ」と言われたときの手順です。上から順に聞いてみてください。
図解② 「掛け捨てはもったいない」と言われたら
質問 1
その保険は、どんなリスクに備えるものですか?
質問 2
そのリスクは「低確率・大損失」ですか?
質問 3
掛け捨てなら、同じ保障でいくらですか?
質問 4
貯蓄型にすると、追加でいくら払いますか?
質問 5
途中で解約したら、いくら戻りますか?
質問 6
戻ってくるお金を含めて、資産形成として他の方法と比べましたか?
質問1と2で「そもそも保険が必要か」が分かり、3〜6で「どの形で持つか」が分かります。ちゃんとした担当者なら、どれも嫌がらずに答えてくれます。
では、結局どの保険が必要なのか
4象限を実際の保険に当てはめると、はっきりします。「低確率・大損失」に当てはまるのは、そう多くありません。
図解③ 保険で備えるのは、この3つ
🚗 自動車保険
自動車に乗る人
事故の賠償は数千万円〜億単位になることがある
🏠 火災保険
持ち家の人
家を失えば、住む場所とローンだけが残る
👨👩👧 生命保険
自分が死んだら、家族が路頭に迷う人
遺された家族の生活費は数千万円規模になる
共通しているのは「めったに起きないが、起きたら自分の貯金ではどうにもならない」という点だけです。裏を返せば、この条件に当てはまらないものは、まず貯蓄で対応できないかを考えることになります。
自動車保険(自動車に乗る人)
車やバイクを持つ人は、自賠責保険への加入が法律で義務づけられています(原付を含む)。ただし、自賠責はあくまで最低限です。
支払限度額は、被害者1名につき死亡で3,000万円、傷害で120万円。そして、
自賠責保険・共済の支払限度額を超えた損害については事故の加害者の契約する任意保険等に対して請求することになります (国土交通省)
限度額を超えた分は、加害者本人が払うことになります。 死亡事故の賠償額が1億円を超えることは珍しくありません。3,000万円を引いても、残りは自分で背負うことになります。
これは典型的な「低確率・大損失」です。任意保険の対人・対物を無制限にしておく理由がここにあります。
火災保険(持ち家の人)
家が焼けても、住宅ローンは残ります。 住む場所を失ったうえに、返済だけが続く。これも自分の貯金でどうにかできる金額ではありません。
補足
賃貸の場合、建物は大家のものなので建物の火災保険は不要です。ただし借りている部屋を焼いてしまったときの大家への賠償(借家人賠償責任)は自分の負担になるため、賃貸契約時にセットで加入するのが一般的です。
なお、地震・噴火・津波が原因の損害は火災保険の対象外で、備えるには地震保険が別に必要になります(財務省)。地震保険に入るべきかどうかは論点が多いので、別の記事であらためて検証します。
生命保険(死んだら、家族が路頭に迷う人)
条件はこれだけです。自分が死んだあと、生活に困る人がいるかどうか。
- 子どもが小さく、配偶者だけでは生活費が足りない → 必要
- 独身で、自分の収入を頼っている人がいない → 必要とは限らない
- 共働きで、片方の収入だけでも生活できる → 必要な額は小さくなる
「社会人になったら生命保険」ではありません。誰かがあなたの収入で生活しているかどうかが判断基準です。
そして必要な場合も、遺族年金で受け取れる分を差し引いて、足りない額だけを用意すれば足ります。
実際は
逆に言えば、この3つ以外で勧められた保険は、いったん4象限に当てはめてみてください。 「低確率・大損失」に入らないなら、貯蓄で対応できないかを先に考える番です。
まとめ
「掛け捨てはお金を捨てている」
これは、少し違います。
保険は、払ったお金を増やして返してもらうためのものではありません。自分では到底対応できないほど大きな損失に備えるためのものです。
だから保険を考えるときは、
「何もなかったらお金が戻ってこない」
ではなく、
「その保険は、どんなリスクから自分を守ってくれるのか?」
を考えてください。
そして、この物差しを持ち帰ってください。
- 低確率・大損失 → 保険で備える
- 損失が小さい → 貯蓄で備える
- 高確率・大損失 → 保険の前に、そもそも近寄らない
そして、この条件に当てはまる保険は多くありません。
- 自動車保険(自動車に乗る人)
- 火災保険(持ち家の人)
- 生命保険(死んだら、家族が路頭に迷う人)
この3つ以外を勧められたら、4象限のどこに入るのかを確かめてから決めてください。
お金を増やしたいなら、それは資産形成の話として、別に考える。
「掛け捨てはもったいないですよ」と言われたら、こう聞いてみてください。
「その保険、何のために入るんですか?」
📋 契約前にここを確認
- その保険は、どんなリスクに備えるものですか?
- そのリスクは「低確率・大損失」ですか?
- 掛け捨てなら、同じ保障でいくらですか?
- 貯蓄型にすると、追加でいくら払いますか?
- 途中解約したら、いくら戻りますか?
- 戻ってくるお金を含めて、資産形成として他の方法と比べましたか?
- 公的な保障で足りる部分はありませんか?