「貯蓄型保険なら安心してお金を貯められます」は本当?正体はセット商品です
営業トーク
「掛け捨てだと何も残りませんよ。貯蓄型なら、保障を持ちながらお金も貯められます」
結論
保険会社の取り分(事業費)は、あなたが得をするかどうかに関係なく、最初から保険料に組み込まれています。一方で加入者側は、早くやめれば元本割れ、続けても増え方は年1%前後。保障は掛け捨て、資産形成は投資と分けたほうが、どちらも良い条件になります。
「掛け捨てだと、何も残りませんよ」
保険の相談窓口やFP面談で、一度は聞くセリフだと思います。そのあとに、こう続きます。
「貯蓄型なら、保障を持ちながらお金も貯められます」
たしかに魅力的です。保障もついて、お金も残る。悪い話に聞こえません。
でも、ここで一つだけ聞きたい。
いくら増えるんですか?
先に、この記事の結論
この記事で分かること
1. 取り分の非対称
保険会社の事業費は結果に関係なく最初から保険料に入っています。加入者側の受取額は、そのあとに決まります
2. 早くやめると
短期解約の返戻金はゼロか、ごくわずか。市場が下がったからではなく、早くやめたから減ります
3. 長く続けても
増え方は控えめ。年利に直すと年1%前後
4. 正体は
「薄めの保障」と「控えめな積み立て」のセット商品。保障は掛け捨て、資産形成は投資と、分けたほうがどちらも良い条件になります
この記事は数字で確認したうえで結論を出しています。営業担当者を責める記事ではありません。
ちょっと待って。「貯まる」と「増える」は違います
タンス預金でも「お金は貯まり」ます。増えないだけです。
資産形成の商品として評価するなら、確認すべきは「貯まるかどうか」ではなく、どのくらいの利率で増えるのか、そして他の選択肢と比べてどうなのかです。
営業トーク
貯蓄型なら、保障を持ちながらお金も貯められます
CHECK
「貯まる」のは分かった。で、年何%で増えるの?
実際は
この数字を聞かずに「お得」と判断することはできません。
なお「予定利率1%」と言われても、それはあなたのお金が1%で増えるという意味ではありません(詳しくはこちら)。見るべきは払込総額・返戻金・返戻率の3つです。そして返戻率が分かったら、年利に直してください。返戻率110%を20年の月払いで達成しても、年利にすれば約0.94%です。
保険会社の取り分は、先に決まっています
はっきりしている事実があります。
保険料の計算に使われる3つの予定率のうちの1つが、予定事業費率です。
生命保険会社は契約の締結・保険料の収納・契約の維持管理などの事業運営に必要な諸経費をあらかじめ見込んでいます。これを予定事業費率といいます。 (生命保険文化センター)
実際は
保険会社の運営経費は、あなたのお金が増えようが増えまいが、最初から保険料に組み込まれています。 契約が思ったより増えなかったとしても、この分が後から返ってくることはありません。
つまり、こういう非対称があります。
| 取り分の決まり方 | |
|---|---|
| 保険会社の事業費 | 契約時に保険料へ組み込み済み(結果に関係なく確保される) |
| 加入者の受取額 | 早くやめれば元本割れ。続けても増え方は年1%前後 |
「保険会社が悪い」という話ではありません。事業を続けるための経費が必要なのは当然です。ただ、この経費は加入者が払っているという事実は、契約前に知っておいて損はありません。
元本割れの「起き方」が、投資とはまったく違います
「投資はリスクがあるけど、保険は安全」。そう説明されることがあります。でも、リスクの中身が違うだけです。
契約してから短期間で解約したときには、解約返戻金はまったくないか、あってもごくわずかです。 (生命保険文化センター「解約」)
「まったくない」。つまり、払ったお金が戻ってこないケースがあるということです。
同じ「1年でやめた」場合を並べてみます。
図解① 「1年でやめた」ときに何が起きるか
| 貯蓄型保険 | インデックス投資(投資信託) | |
|---|---|---|
| 1年で解約すると | 返戻金はゼロか、ごくわずか | その日の値段で売れる |
| 減る原因 | 早くやめたこと(契約の設計) | 市場が下がったこと |
| 市場が上がっていたら | それでも戻りは少ない | 増えた状態で売れる |
| いつ引き出せるか | 時期によって大きく不利になる | いつでも時価で売れる |
インデックス投資にも元本割れのおそれはあります(金融庁「投資の基本」)。ただしそれは市場が下がったときの話で、「早く売ったから9割減らされる」という仕組みはありません。同じ「元本割れ」でも原因がまったく違います。
実際は
保険の元本割れは「市場が下がったから」ではなく、「早くやめたから」起きます。
この設計は、偶然ではありません
さらにはっきりしているのが「低解約返戻金型」です。
保険料払込期間中など一定期間の解約返戻金を通常より抑えることで保険料を割安にした商品です。 (生命保険文化センター「終身保険」)
CHECK
「途中でやめたときに大きく損をすることを受け入れてくれるなら、保険料を安くします」という商品。 つまり、早期解約の不利は偶然ではなく、最初から商品設計に組み込まれているということです。
国民生活センターには生命保険に関する相談が毎年4,000件以上寄せられており、「5年ごとに配当金が減少し、元本を下回る状況になった」といった事例も挙がっています(国民生活センター)。
なお公平に書いておくと、保険会社もリスクゼロではありません。 契約時の予定利率が長期に適用されるため、運用環境が悪化しても会社は約束した水準を負担し続けます。過去には経営が行き詰まった生命保険会社もありました。
貯蓄型保険の正体は「セット商品」です
ここまでを整理すると、この商品の姿がはっきりします。
貯蓄型保険は、ひとことで言えば「保障」と「積み立て」を1つにまとめたセット商品です。これは批判ではなく、商品の構造そのもの。問題は、セットにすると、それぞれが単体より弱くなることです。
保障として見ると、同じ保険料なら薄くなります
定期保険は、終身保険や養老保険に比べて少ない保険料で多くの保険金を準備できます。 定期保険には、貯蓄性はありません。 (生命保険文化センター「定期保険」)
裏返すと、こうなります。
実際は
同じ保険料を払うなら、掛け捨てのほうが保障は大きい。 貯蓄型は保険料の一部が積み立てに回るぶん、同じ金額で用意できる保障が小さくなります。
「掛け捨てはもったいない」と言われますが、保障を買うという目的だけで見れば、掛け捨てのほうが効率は良いわけです。
資産形成として見ると、増え方は年1%前後
こちらは返戻率の記事で計算したとおりです。返戻率110%を20年の月払いで達成しても、年利に直せば約0.94%。
つまり貯蓄型保険は、保障としては薄めで、資産形成としては控えめ。 その2つがセットになっている商品、という見方ができます。
まとめるか、分けるか
図解② 「1本にまとめる」と「分ける」の違い
| まとめる(貯蓄型保険) | 分ける(掛け捨て+投資) | |
|---|---|---|
| 保障 | 同じ保険料なら薄くなる | 同じ保険料で厚くできる |
| 資産形成 | 契約時の条件で決まる(控えめ) | 市場次第(増えることも減ることも) |
| 内訳 | 保障にいくら・積立にいくらが見えにくい | 別々なので見える |
| 他と比較する | しにくい(セットのまま比べることになる) | できる(保障は保障、投資は投資で) |
| 片方だけやめる | できない | できる |
| 手間 | 1本で済む | 2つ管理する |
どちらが正解かではなく、性質の違いです。ただし「片方だけやめられるか」は、20年30年という期間では効いてきます。
いちばん効いてくるのは「片方だけやめられるか」
たとえば、収入が下がって毎月の支出を見直すことになったとします。
分けている場合は、投資の積立だけ止めれば済みます。保障はそのまま残ります。逆に「保障はもう要らない」と思えば、保険だけやめて投資は続けることもできます。
まとめている場合は、そうはいきません。解約すれば保障も一緒に消えます。保障を残したければ払い続けるしかなく、その状態で解約すれば元本割れします。
ここに注意
セット商品は、苦しくなったときに片方だけ手放すことができません。 20年・30年という期間のうちには、家計が変わる場面が必ず出てきます。
筆者の見方
ここは事実ではなく、筆者の考えです。
「保障が必要なら掛け捨てで用意する。お金を増やしたいなら投資でやる。」 筆者は、この2つは分けるべきだと考えています。理由は4つです。
- 保障が厚い(同じ保険料なら掛け捨てのほうが大きい)
- 何にいくら払っているかが見える
- 他と比べられる(保障は保障、投資は投資として比較できる)
- 片方だけやめられる
セットになっていると、この4つがどれも失われます。少なくとも「比べにくくなっている」のは確かです。
そして大事なのは、これは「途中でやめるかどうか」とは別の話だということです。最後まで続けても、保障が薄いことと増え方が年1%前後であることは変わりません。「続けられるなら貯蓄型でいい」ということにはなりません。
「掛け捨ては何も残らない」と言われたら、こう考えてみてください。掛け捨てで浮いた分を自分で積み立てれば、残るお金は自分の手元にあります。 保障と貯蓄が別々にあるだけで、なくなっているわけではありません。
「自分では貯められないから」は理由になりません
ここで、貯蓄型保険をすすめる最後の根拠が出てきます。
営業トーク
自分で貯めるのは難しいですよ。保険なら強制的に貯まります
たしかに、口座から自動で引き落とされ、やめるには手続きと元本割れという痛みがある。だから続きやすい。これは事実です。
でも、それは保険でなければできないことでしょうか。
CHECK
自動で引き落として積み立てる仕組みは、投資でも銀行でも作れます。
| 貯蓄型保険 | 投資や預金の自動積立 | |
|---|---|---|
| 自動で引き落とされる | ○ | ○ |
| やめにくい | ○(元本割れするから) | △(いつでも止められる) |
| 途中で必要になったとき | 大きく減って戻る | そのまま引き出せる |
| 増え方 | 年1%前後 | 市場次第(預金なら増えない) |
「やめにくい」を強制力と呼ぶか、身動きが取れないと呼ぶかの違いです。
「自分では貯められない」という悩みは本物です。ただ、その解決策として保障が薄く、増え方も控えめな商品を選ぶ必要はありません。
営業担当者の説明が全部おかしい、という話ではありません。 ただ、勧められるときに語られるのは「保障もついてお金も貯まる」という商品の性能の話です。性能で比べたとき、分けたほうが良い条件になる——それがこの記事の結論です。
契約前に知っておきたい注意点
長期間、お金が動かせない
10年、20年、30年。その間に転職・出産・住宅購入・親の介護があるかもしれません。「そのとき解約すると損をする」状態を、何十年も抱えることになります。
インフレで実質価値が下がる可能性がある
30年後に120万円受け取れても、そのときの物価が上がっていれば、買えるものは減ります。名目の金額だけでは判断できません。
保障部分と貯蓄部分が分けて見えにくい
「いくらが保障のコストで、いくらが積立に回っているか」は、商品によっては明示されません。聞いてみる価値があります。
営業トークは、そのまま「質問」に変えられます
論破する必要はありません。質問に変換するだけです。
| 営業トーク | ここで確認 |
|---|---|
| 「銀行に置いておくよりお得ですよ」 | その「お得」って、何と比べてますか? |
| 「保障もついて、お金も貯まります」 | 保障にいくら払って、貯まる部分はどのくらいですか? |
| 「返戻率110%です」 | それは何年で110%になるんですか? |
| 「予定利率1%の商品です」 | それは私の受取額が1%ずつ増えるという意味ですか? |
| 「掛け捨てはもったいないですよ」 | 掛け捨てにして、差額を自分で積み立てた場合と比べるとどうなりますか? |
ちゃんとした担当者なら、これらの質問に嫌な顔をせず答えてくれます。答えられない・はぐらかされる場合は、その場で決めない理由になります。
この理由で契約しようとしているなら、いったん止まってください
- 「保障もついて、お金も貯まるから」→ 分けたほうが、どちらも良い条件になります
- 「掛け捨てはもったいないから」→ 掛け捨てで浮いた分を自分で積み立てれば、そのお金は自分の手元に残ります
- 「自分では貯められないから」→ 自動積立の設定でも同じことができます
- 「増えると聞いたから」→ 年利に直しましたか? 返戻率110%・20年の月払いで、年約0.9%です
- 「担当者がすすめてくれたから」→ 数字を見てから決めても、条件は変わりません
それでも契約するなら、最低限これだけは
どうしても契約したい事情があるなら、止めはしません。ただし次の3つは必ず確認してからにしてください。
- 年利に直していくらか。 返戻率ではなく年利で見る
- 1年・3年・5年で解約したらいくら戻るか。 推移表をもらう
- 同じ保険料で掛け捨てにしたら、保障はいくらになるか。 見積もりを取って比べる
3つ目を出してもらうと、保障の厚さの違いがはっきり見えます。「同じ保険料でこれだけ違うんですか」と気づけるかどうかが分かれ目です。
こんな状態なら、契約しないほうがいい
- 数年以内に使う予定のあるお金を入れようとしている
- 収入が不安定で、払込を続けられるか分からない
- 資産形成だけが目的で、保障は特に必要ない
- 保障が必要なのに、貯蓄を優先して保障額を削っている
- 年利に直した数字を、まだ見ていない
まとめ
「貯蓄型保険なら安心してお金を貯められます」
この説明は、完全に間違いとは言えません。実際に貯まりますし、保障もついています。
ただし、「お金が貯まる」ことと「資産形成として有利」なことは、別の話です。
筆者の考えははっきりしています。
保障が必要なら、掛け捨ての保険で用意する。お金を増やしたいなら、投資でやる。 分けたほうが、保障は厚くなり、中身が見えて、比べられて、片方だけやめられます。
これは「途中でやめなければ大丈夫」という話ではありません。 最後まで続けても、保障が薄いことと増え方が年1%前後であることは変わらないからです。
忘れないでほしいのは、保険会社の取り分は結果に関係なく先に決まっているということ。そして減っていなくても、増えなかった分は失われているということです。
関連記事
📋 契約前にここを確認
- 最終的にいくら払いますか?(払込総額)
- 何年後に、いくら戻りますか?
- 1年でやめたら、いくら戻りますか?(3年・5年・10年も)
- 年利に直すと何%ですか?
- 同じ保険料を掛け捨てにしたら、保障はいくらになりますか?
- 保障部分にいくら、貯蓄部分にいくら使われていますか?