企業型DCとiDeCo、手数料はどちらが安い?「口座管理料」と「信託報酬」を分けて見る
営業トーク
「会社が手数料を負担していますので、みなさんは手数料の負担なく運用していただけます」
結論
会社が負担しているのは口座管理料までです。商品の信託報酬は、厚生労働省のQ&Aでも加入者負担と明記されており、企業型DCでも必ず自分の資産から引かれます。しかも口座管理料は定額なので資産が増えても変わりませんが、信託報酬は率なので資産に比例して増えます。長く積むほど効いてくるのは後者です。
会社の会議室で、確定拠出年金の説明会があります。
話すのは、たいてい会社の人ではありません。制度を運営している金融機関(運営管理機関)の担当者です。信託銀行や生命保険会社、銀行、証券会社などが務めています。
そこで、こう説明されることがあります。
「会社が手数料を負担していますので、みなさんは手数料の負担なく運用していただけます」
「制度でご用意している商品ですから、この中から選んでいただければ大丈夫です」
どちらも嘘ではありません。 ただ、言っていないことがあります。
先に結論
この記事の結論
手数料は2種類あります
口座管理料(定額)と信託報酬(率)。混ぜて考えると判断を間違えます
会社が持つのは
口座管理料まで。商品の信託報酬は、企業型DCでも必ず自分の資産から引かれます(厚労省Q&A)
しかも
定額の差は資産が増えても変わらず、率の差は資産に比例して増えます。長く積むほど、後者が効いてきます
だから最初にやることは
ラインナップの信託報酬を全部書き出すこと。そのうえでiDeCoの枠と比べます(併用できます)
手数料は2種類あります
ここからが本題です。確定拠出年金の手数料は、性質の違う2つに分かれます。
| 何に対して | どう決まるか | |
|---|---|---|
| 口座管理料 | 制度を維持する事務 | 定額(月いくら) |
| 信託報酬 | 選んだ運用商品 | 率(資産の年何%) |
この2つを分けないまま「企業型DCは手数料がかからない」と言われると、判断を間違えます。
企業型DCの場合
口座管理料:誰が負担するかは会社の規約で決まります。実務上は会社(事業主)が負担していることが多いのが実際です。ここは「企業型DCが有利」で合っています。
信託報酬:こちらは違います。厚生労働省のQ&Aに、はっきり書かれています。
(信託報酬や信託財産留保額等について)加入者負担となることを規約に規定する必要がある (厚生労働省「確定拠出年金Q&A」No.81)
実際は
会社が持ってくれるのは、口座管理料までです。 商品の信託報酬は、企業型DCでも必ず自分の資産から引かれます。
iDeCoの場合
iDeCoは口座管理料も自分で払います。金額は公表されています。
国民年金基金連合会:新規に加入者の資格を取得又は資産を移換した際に税込2,829円(初回のみ)、加入者の方の場合は掛金納付の都度税込105円 (iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会))
毎月拠出すれば、この分だけで年1,260円です。これに運営管理機関と事務委託先金融機関の手数料が加わります。金額は機関によって違い、運営管理機関の手数料が0円のところもあります。
🔴 定額と率、どちらが効くのか
ここが記事の核心です。この2つは、増え方がまったく違います。
図解① 口座管理料と信託報酬は、増え方が違う
口座管理料(定額)
資産が10万円でも1,000万円でも、払う額は同じです
信託報酬(率)
資産が増えると、払う額も比例して増えます
だから
積立の初期は口座管理料が重く、資産が育つほど信託報酬の差のほうが効いてきます
数字にします。同じ指数に連動する商品でも、信託報酬に年0.3ポイントの差があった場合、それが1年でいくらになるか。
| 資産額 | 年0.3%の差 |
|---|---|
| 100万円 | 3,000円 |
| 300万円 | 9,000円 |
| 500万円 | 15,000円 |
| 1,000万円 | 30,000円 |
| 2,000万円 | 60,000円 |
いっぽう、iDeCoの口座管理料(国民年金基金連合会の分)は年1,260円で固定です。
資産が42万円を超えたあたりから、年0.3%の信託報酬の差のほうが大きくなります。 60歳まで積み立てるなら、資産はそれよりずっと大きくなります。
CHECK
「口座管理料がタダだから企業型DCのほうが安い」とは限りません。 比べるなら、信託報酬まで並べてからです。
企業型DCは、商品を自分で選べません
もうひとつ、構造的な違いがあります。
iDeCoは金融機関(運営管理機関)を自分で選びます。 iDeCo公式サイトも、選ぶ基準をこう書いています。
運営管理機関(金融機関)を選ぶ際の判断材料には、口座管理手数料、運用商品(信託報酬の高低も含む)の種類、サービス内容……などが考えられます (iDeCo公式サイト)
公式が「信託報酬の高低」を選択基準に挙げています。 しかも運営管理機関は、あとから変更することもできます。
企業型DCは違います。運営管理機関を選ぶのは会社です。 従業員は、会社が契約した金融機関が用意した商品の中からしか選べません。
補足
説明会に来る担当者に悪意がある、という話ではありません。ただ、その人は制度を運営している側の人です。「よそのほうが率は低いですよ」とは言いにくい立場にあります。 だから率は、こちらで並べる必要があります。
法律で決まっているのは、本数の枠です。
最低でも3つ以上(簡易企業型年金においては2つ以上)の商品の提示を義務付ける (厚生労働省「確定拠出年金制度等の一部を改正する法律の主な概要」。上限は35本)
3本から35本の中に、信託報酬の低いインデックスファンドが入っているかどうか。 そこは会社と運営管理機関の選定次第です。
「低い」とは、どれくらいか
比べるには、物差しが要ります。実際に流通している商品の数字を、交付目論見書から2つ挙げておきます(いずれも2026年7月25日付)。
| ファンド | 運用管理費用(信託報酬・税込年率) |
|---|---|
| eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | 年0.05775%以内 |
| eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) | 年0.08140%以内 |
(交付目論見書(全世界株式)/交付目論見書(S&P500)。どちらも購入時手数料・信託財産留保額はありません)
どちらも0.1%を下回っています。 しかもこれは上限で、純資産総額が大きくなるほど率は下がる仕組みです(同じ目論見書に、実質の率が全世界株式で約0.0576%、S&P500で約0.0765%と示されています)。
補足
特定の商品を勧めるものではありません。「同じような指数に連動する商品が、いまいくらで買えるのか」を知るための物差しとして挙げています。 信託報酬は引き下げられることがあり、上の数字も純資産総額に応じて変わります。最新の率は必ず目論見書で確認してください。
この水準を知ったうえで、自分の企業型DCのラインナップを見てください。同じ「全世界株式」「米国株式」でも、率が数倍違うことがあります。
実際は
中身が同じ指数に連動しているなら、違うのは率だけです。 そして率の差は、複利と同じで、持っている年数だけ効き続けます。
🔴 会社には「5年ごとに見直す」努力義務があります
ここは知っておくと使えます。
企業型年金を実施する事業主は、運営管理業務を運営管理機関に委託する場合は、少なくとも5年ごとに、運営管理機関が実施している運営管理業務について評価を行い、委託内容について検討を加え、必要に応じて、委託内容の変更や運営管理機関の変更などを行うよう努める必要があります (厚生労働省「事業主による運営管理機関の評価について」)
続けて、こうも書かれています。
事業主は、加入者にとって最も適切な運営管理機関を選任する義務があり……
加入者が選択できる運用商品は、運営管理機関が、加入者にとって真に必要なものに限って、労使と十分に協議・検討を行い選定することとされています
その報告内容や評価内容を加入者等に開示することが望まれます
実際は
ラインナップに不満があるなら、それは会社に言っていい話です。 「見直しの評価はしていますか」「結果を見せてもらえますか」——制度上、聞いていい質問です。
「企業型DCがあるからiDeCoは不要」も違います
ラインナップの率が高いとわかったとき、次に出てくるのがこの思い込みです。企業型DCとiDeCoは、条件を満たせば両方使えます。
2022年10月から、企業型DCの規約に定めがなくてもiDeCoに入れるようになりました。厚生労働省の資料です。
令和4年10月からは、企業型DCの規約の定めを不要とし、月額55,000円から各月の企業型DCの事業主掛金を控除した残余の範囲内(上限20,000円)で、iDeCo の掛金を各月拠出できるようになります (厚生労働省「企業型DC加入者がiDeCoを利用しやすくなります」)
現在(2024年12月以降)のルールはこうです。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| iDeCoの上限 | 月額55,000円 −(企業型DCの事業主掛金+確定給付型の掛金相当額)。20,000円を超える場合は20,000円 |
| できない場合 | 企業型DCのマッチング拠出(自分でも上乗せする仕組み)を利用している場合 |
ここに注意
会社の掛金が多い人は、iDeCoの枠が小さくなるか、ゼロになることもあります。 厚労省も「事業主の拠出額によっては、iDeCo の掛金の上限が小さくなったり、掛金を拠出できなくなったりすることがあります」と書いています。まず自分の枠を確認してください。
つまり「企業型DCがあるからiDeCoは不要」ではなく、「自分の場合、iDeCoの枠がいくら残っているか」という話です。
確認する順番
図解② 企業型DCに入っている人が確認すること
1
企業型DCのラインナップの信託報酬を、全部書き出す(資料か加入者サイトに載っています)
2
同じ指数に連動する商品どうしで率を比べる。同じ動きなら、低いほうが手元に残ります
3
iDeCoの枠がいくら残っているかを確認する(55,000円 − 会社の拠出額、上限2万円)
4
枠がある場合、口座管理料(定額)と信託報酬(率)を両方足して比べる
マッチング拠出を使っている場合はiDeCoに入れません。どちらを使うかは自分で選べます(2022年10月から)。
ここに注意
転職・退職したら6か月以内に手続きを。 企業型DCの資産を放置すると自動移換となり、iDeCo公式サイトによれば「自動移換された後4カ月目から管理手数料が毎月98円(年間1,176円)、個人別管理資産から差し引かれ、資産が減り続けます」。しかもその間は運用もされません。
まとめ
「会社が手数料を負担していますので、手数料の負担なく運用していただけます」
負担してくれているのは、口座管理料までです。
- 手数料は口座管理料(定額)と信託報酬(率)の2種類。分けて考えます
- 企業型DCは口座管理料を会社が持つことが多い。でも信託報酬は必ず自分の資産から引かれます(厚労省Q&A)
- 定額の差は資産が増えても変わらず、率の差は資産に比例して増えます。 年0.3%の差は、資産500万円で年15,000円
- 企業型DCは運営管理機関も商品も会社が決めます。 選べるのは3〜35本の中だけ
- ただし会社には少なくとも5年ごとに見直す努力義務があります
確認するのは、この一言からです。
「うちの企業型DCの商品、それぞれ信託報酬は年何%ですか?」
数字が並べば、あとは自分で比べられます。
信託報酬がなぜ長期で効くのかは複利とインデックス投資のきほん、同じ指数でも率が変わる理由は「プロが運用するアクティブファンドなら儲かる」は本当?にまとめています。
📋 契約前にここを確認
- 会社の企業型DCで、口座管理料は誰が払っていますか?(規約で決まります)
- ラインナップにある商品の信託報酬は、それぞれ年何%ですか?
- 同じ指数に連動する商品で、もっと低い率のものはありますか?(0.1%を下回る商品も流通しています)
- 会社はマッチング拠出を導入していますか?
- 会社は運営管理機関の評価を行い、加入者に開示していますか?
参照した情報源
- 厚生労働省「確定拠出年金Q&A」No.81(信託報酬等は加入者負担となることを規約に規定する必要がある)
- 厚生労働省「企業型DC加入者がiDeCoを利用しやすくなります」(併用要件・拠出限度額)
- 厚生労働省「事業主による運営管理機関の評価について」(少なくとも5年ごとの評価・運用商品の選定)
- iDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)「よくあるご質問|手数料について」
- 厚生労働省「確定拠出年金制度等の一部を改正する法律の主な概要(2018年5月1日施行)」(運用商品は3本以上35本以下)
- 三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)交付目論見書」(2026年7月25日・信託報酬 年0.05775%以内)
- 三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)交付目論見書」(2026年7月25日・信託報酬 年0.08140%以内)