複利とインデックス投資のきほん|ジャックとジルの話で「時間」を見る
営業トーク
「銀行に預けていても増えませんよ。うちで運用してみませんか」
結論
「増えない」という指摘は事実です。ただし、次に出てくる商品が答えとは限りません。増える仕組みの正体は複利で、効くのは「どこに置くか」「いつ始めるか」「いくらのコストを払うか」の3つです。ジャックとジルの差が280万円で済んだのは、2人とも同じ器に入れていたからです。ただし増える保証はなく、元本割れのおそれもあります。
銀行や証券会社の窓口で、よく言われます。
「銀行に預けていても増えませんよ」
この指摘そのものは、事実です。 ただ、そのあとに出てくる商品が答えとは限りません。
その場で判断するために、そもそも「増える」とはどういう仕組みなのかを先に知っておきましょう。
先に結論
この記事の結論
増える仕組みの正体
複利です。増えた分がまた増える、という繰り返しです
複利に効くのは
出した金額より「時間」。この記事のジャックは180万円で、1,080万円のジルに勝ちます
ただし大前提として
2人とも同じ器に入れています。どこに置くかを間違えると、早い遅いの差どころではありません
そして削るのは
コスト。手数料も、まったく同じ年数だけ効いてきます
だから
商品を選ぶ前に決まることが3つあります。どこに置くか、いつ始めるか、いくらのコストを払うかです
🔴 ジャックとジルの話
複利を実感するのに、よく使われるたとえ話があります。ジャックとジルの話です。
2人とも、毎月3万円(年36万円)を積み立てます。違うのは、始める時期と続ける年数だけです。
| 積み立てる期間 | 出したお金(元本) | |
|---|---|---|
| ジャック | 25歳から29歳までの5年だけ(その後は一切追加しない) | 180万円 |
| ジル | 35歳から64歳までの30年 | 1,080万円 |
ジルはジャックの6倍のお金を出します。しかも6倍の期間続けます。
どう考えてもジルの勝ちに見えます。 65歳時点を見てみましょう。
図解① 65歳時点の資産(年10%で計算)
ジャックの元本は180万円、ジルの元本は1,080万円です。年10%で一定に増えると仮定した数学上の計算で、実際の運用成績を示すものではありません。
ジャックが勝ちます。
実際は
ジルは6倍のお金を出して、30年積み立てました。 それでもジャックに、約280万円届きませんでした。
ジャックが余分にやったことは、ひとつもありません。ただ10年早く始めて、5年でやめただけです。
その差は「働いた年数」です。ジャックが25歳で出した1万円は65歳まで40年働きます。ジルが64歳で出した1万円は、1年しか働きません。
これが「複利は時間で効く」という言葉の中身です。そして時間だけは、あとから買い足すことができません。
ここに注意
年10%は、このたとえ話がもともと使っている設定です。 期待できる利回りとして示したものではありません。 金融庁も「預貯金よりも高いリターンを期待することはできますが、元本割れのおそれもあります」と書いています(金融庁「資産形成の基本」)。
補足
正直に書いておくと、利率が下がるとこの逆転は起きにくくなります。 同じ条件を年5%で計算すると、金額ではジル(約2,511万円)がジャック(約1,152万円)を上回ります。 ただしその場合も、元本が6倍のジルは2.3倍にしか増えず、ジャックは6.4倍に増えています。「後から出したお金は、時間がないぶん働きが弱い」という関係そのものは変わりません。
🔴 でも、ジルは負けていません
ここが、この話でいちばん見落とされるところです。
「ジャックが勝った」ばかりが目立ちますが、ジルも1,080万円を約6,510万円にしています。 元本の6倍です。
なぜかというと、2人とも同じ選択をしているからです。
CHECK
ジャックとジルの違いは、「いつ始めたか」だけです。 やっていることは同じ。市場全体に、長く置いた。 それだけです。 (これがインデックス投資です。この記事の後半で説明します)
この話は、2人ともすでに同じ器に入れている前提で成り立っています。 だから差が280万円で済んでいるのです。
器が違えば、差はこんなものでは済みません。ジルとまったく同じ「月3万円を30年」(元本1,080万円)でも、増え方によってこうなります。
| 増え方 | 65歳時点 | 元本の |
|---|---|---|
| 増えない(そのまま置く) | 1,080万円 | 1.0倍 |
| 年1% | 約1,265万円 | 1.2倍 |
| 年5% | 約2,511万円 | 2.3倍 |
| 年10%(この話の設定) | 約6,514万円 | 6.0倍 |
出したお金は、どれも同じ1,080万円です。
実際は
「早いか遅いか」の差は280万円。「どこに置くか」の差は5,000万円以上。 順番として大きいのは、器のほうです。
保障と積立をまとめた貯蓄型保険は、増え方が年1%前後にとどまることがあります。表の上から2番目です。ここに置いていたら、早く始めても遅く始めても、この話には乗れません。
ここに注意
この表は利率を並べただけの計算です。年10%が期待できるという意味ではありません。上の行ほど値動きが小さく、下の行ほど元本割れのおそれが大きくなります。 器を選ぶというのは、そのリスクを引き受けるかどうかを選ぶことでもあります。
そして、こうも言えます。
CHECK
この話の教訓は「遅いと損」ではありません。 ジルも元本の6倍になっています。効いているのは早さの差ではなく、置いた年数そのものです。
なぜ、こんなことが起きるのか
ここからが仕組みの話です。複利という言葉から確認します。金融庁の定義です。
投資や預金などで得た収益を、当初の元本にプラスして運用することで得られる利益を「複利」と呼びます (金融庁「資産形成の基本」)
増えた分を、元本に足してもう一度運用する。 これが複利です。増えた分を毎回受け取ってしまう(元本に足さない)のが単利です。
100万円を年10%で30年置いた場合を比べます。
図解② 100万円・年10%・30年(単利と複利)
元本100万円、利率、年数はすべて同じです。違うのは「増えた分をそのまま置いておくかどうか」だけ。それで4倍以上の差になります。
複利は、後半になるほど効きます
そして、ここがジャックが勝った理由です。
同じ100万円・年10%で、10年ごとにいくら増えたかを分けて見てみます。
図解③ 10年ごとの「増えた額」(100万円・年10%)
追加でお金を入れているわけではありません。同じ100万円を置いているだけで、後半の10年ほど増える額が大きくなります。
実際は
複利のおいしいところは、うしろのほうにあります。 ジャックのお金は、この「うしろ」を10年ぶん多く通りました。それだけの違いです。
金融庁も、そのままこう書いています。
長い期間投資を続けると複利の効果が大きくなります (金融庁「資産形成の基本」)
では、その複利をどこで受け取るのか
ここまでは算数の話でした。実際にどこに置くのか、という話に進みます。
金融庁は、投資の不安と付き合う工夫として「長期・積立・分散」の3つを挙げています。長期はここまで見たとおり。積立は「あらかじめ決まった金額」を「続けて」投資すること。そして分散は、
値動きが異なる複数の資産に分散して投資を行うことで、価格の変動をある程度抑えられ、安定的な運用を目指すことができます (金融庁「資産形成の基本」)
この「分散」を、1本の商品でまとめて引き受けているのがインデックス型の投資信託です。定義はシンプルです。
インデックス型・・・各種指数に連動する運用成果を目指すもの (資産運用業協会「運用対象での分類」)
指数(インデックス)というのは、市場全体の平均のようなものです。日経平均株価やTOPIXが身近な例です。
CHECK
インデックス投資とは、「どの会社が伸びるかを当てにいかない」やり方です。 市場全体を丸ごと持って、平均についていくことを目指します。
当てにいかないぶん、銘柄を選ぶ手間も、選ぶための人件費もかかりません。 ここが次の話につながります。
なお、逆に「当てにいく」のがアクティブファンドです。プロが銘柄を選ぶぶん手数料は高くなります。その成績が実際どうだったかは「プロが運用するアクティブファンドなら儲かる」は本当?にまとめました。
コストも、まったく同じ年数だけ効きます
投資信託には、保有している間ずっとかかる費用があります。
運用管理費用(信託報酬)……投資信託を保有している間、投資信託の保有額に応じて日々支払う費用。年率でいくら支払うのか、目論見書などに記載されています。 (資産運用業協会「投資信託のコスト」)
「保有している間ずっと」がポイントです。買うときだけの手数料とは違います。
つまり、コストにも図解③と同じことが起きます。 40年持てば、40年ぶん引かれ続けます。複利は味方にもなれば、敵にもなります。
だから確認するのは、この一言です。
CHECK
「この商品の運用管理費用(信託報酬)は、年何%ですか?」
目論見書に必ず書いてあります。その場で出せない商品は、いったん持ち帰って構いません(営業されたら確認する10項目)。
忘れてはいけない前提
複利の話は魅力的に見えるので、ここははっきり書いておきます。
年10%でも年5%でも、一定に増える金融商品は存在しません。 上がる年もあれば、大きく下がる年もあります。この記事の計算は、あくまで「時間の効き方」を見るためのものです。
そして、複利が効くには時間が必要です。途中で下ろす前提のお金は、そもそも向いていません。 金融庁も、金融商品を安全性・収益性・流動性の3つで見たうえで「3つとも◎の金融商品はありません。目的に応じて使い分けましょう」としています。
大学の入学金のように使う時期が決まっているお金は、値動きしないところに置く。この考え方は学資保険の記事と同じです。
もうひとつ。保障が必要なら掛け捨ての保険で、資産形成は資産形成として。 器の話を「保険で兼ねる」とまとめてしまうと、貯蓄型保険のように増え方が年1%前後にとどまることがあります。
まとめ
「銀行に預けていても増えませんよ」
その指摘は事実です。 ただ、答えは相手が出す商品の中にあるとは限りません。
- ジャックは180万円、ジルは1,080万円。それでもジャックが勝ちました
- 理由は複利が後半ほど効くから。ジャックのお金は「うしろ」を10年ぶん多く通りました
- だから効くのは、出した金額より時間です
- ただしジルも負けていません。 2人とも同じ器に入れていたからです。「早いか遅いか」より、「どこに置くか」のほうが差は大きくなります
- コストも同じ年数だけ効きます。 保有している間ずっと引かれ続けます
- そして元本割れのおそれがあります。 使う時期が決まっているお金は入れません
商品を選ぶ前に、自分で決められることが3つあります。どこに置くか、いつ始めるか、いくらのコストを払うかです。
勧められたら、こう聞いてみてください。
「この商品は、年何%の手数料が、何年間かかりますか?」
数字が出れば、あとは自分で計算できます。
📋 契約前にここを確認
- そのお金は、いつ使う予定ですか?
- 何年くらい、置いておけますか?
- 途中で下ろす可能性はありませんか?
- その商品の運用管理費用(信託報酬)は年何%ですか?
- 値下がりしたとき、生活は成り立ちますか?