🧭 営業の基本

クーリング・オフの使い方|8日を過ぎても、あきらめるのはまだ早い

🗣️営業トーク

「契約書にサインしましたよね。もうキャンセルはできません」

結論

クーリング・オフができる期間は、契約日からではなく「法律で決められた書面を受け取った日」から数えます。通知は発した時点で効力が生じるので、期限日に出せば間に合います。違約金は請求できず、商品の引取り費用は業者負担、使ってしまっても対価を請求されません。書面が渡されていない、または嘘の説明で期間を過ぎた場合は、期間が経過していないものとして扱われます。

契約してしまった。よく考えたら、いらない。

そう伝えると、こう言われることがあります。

「契約書にサインしましたよね。 もうキャンセルはできません」

これは、正しいとは限りません。

先に結論

この記事の結論

数え始めは

契約日ではありません。「法律で決められた書面を受け取った日」から数えます

▼

効力が生じるのは

「通知を発した時」。相手に届いた日ではないので、期限日に出せば間に合います

▼

費用は

違約金の請求は不可。引取り費用は業者負担。使ってしまっても対価を請求されません

▼

8日を過ぎても

書面をもらっていない/嘘の説明をされたなら、期間はまだ始まっていない・進んでいない扱いです

🔴 数え始めは「契約した日」ではありません

ここが一番の誤解です。条文を見ます。

申込者等が第五条第一項又は第二項の書面を受領した日(その日前に第四条第一項の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して八日を経過した場合……においては、この限りでない (特定商取引法9条1項)

「書面を受領した日」から起算します。契約した日でも、工事が始まった日でもありません。

図解① 数え始めの日

よくある誤解

「契約書にサインした日から8日」——違います

▼

条文では

法律で決められた書面(契約書面)を受け取った日から起算して8日

▼

だから

書面を渡されていなければ、8日はまだ始まっていません。何か月経っていても同じです

💰実際は

書面が渡されていない、あるいは書面の記載に不備がある。 この場合、起算日そのものが来ていないことになります。「もう8日過ぎましたよ」と言われても、まず書面をいつ受け取ったかを確認してください。

🔴 「発した時」に効力が生じます

2番目に効くのがここです。

申込みの撤回等は、当該申込みの撤回等に係る書面又は電磁的記録による通知を発した時に、その効力を生ずる (同9条2項)

普通の意思表示は「相手に届いたとき」に効力が生じます。クーリング・オフはそこが逆で、出した時点です。

🔍CHECK

8日目に出せば間に合います。 相手に届くのが9日目でも構いません。 だからこそ、いつ出したかの記録が要ります。

なお「書面又は電磁的記録」と条文にあるとおり、メールなどの電磁的記録でも可能です。

🔴 お金の扱いは、はっきり決まっています

ここを知らないと、脅されて引き下がってしまいます。条文はどれも明確です。

図解② クーリング・オフしたときのお金

違約金

「損害賠償又は違約金の支払を請求することができない」(9条3項)

▼

商品の引取り費用

「その引取り又は返還に要する費用は、販売業者の負担とする」(9条4項)

▼

使ってしまった分

商品を使った・役務が提供された後でも、使用利益や対価の「支払を請求することができない」(9条5項)

▼

工事をされた場合

「原状回復に必要な措置を無償で講ずることを請求することができる」(9条7項)

最後の項目は、リフォームや設備工事で効きます。

その役務提供契約又は当該特定権利に係る役務の提供に伴い申込者等の土地又は建物その他の工作物の現状が変更されたときは、当該役務提供事業者……に対し、その原状回復に必要な措置を無償で講ずることを請求することができる (同9条7項)

もう工事を始めてしまったから戻せない、という理屈は通りません。

そして、これらを契約書で打ち消すこともできません。

前各項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効とする (同9条8項)

💰実際は

「クーリング・オフはできません」と契約書に書いてあっても、その条項は無効です。

🔴 8日を過ぎても、道が残っている場合があります

9条1項には、かっこ書きで重要な例外があります。

(申込者等が、販売業者……が第六条第一項の規定に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は……威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに申込みの撤回等を行わなかつた場合には、当該申込者等が……申込みの撤回等を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して八日を経過した場合)

かみ砕くとこうです。

図解③ 期間が延びる場合

こう言われた

「この契約はクーリング・オフできません」(=事実と違うことを告げられた)
あるいは威圧されて言い出せなかった

▼

その結果

8日を過ぎてしまった

▼

すると

改めて「クーリング・オフできる」と書いた書面を受け取った日から8日。渡されていなければ、まだ期間は進みません

「できない」と言われたこと自体が、期間を延ばす理由になり得るという構造です。

取引の種類で日数が変わります

クーリング・オフは「どんな買い物にもある制度」ではありません。特定商取引法が定める取引類型ごとに決まっています。

取引の種類 期間 条文
訪問販売 8日 9条
電話勧誘販売 8日 24条
特定継続的役務提供(エステ・語学教室など7役務) 8日 48条
訪問購入(自宅に買い取りに来る) 8日 58条の14
連鎖販売取引(マルチ商法) 20日 40条
業務提供誘引販売取引(内職・モニター商法) 20日 58条
通信販売 制度なし(下記参照) 15条の3

(期間は消費者庁「特定商取引法ガイド」および各条文で確認)

マルチ商法と内職商法だけ20日と長くなっています。

特定継続的役務には金額の条件があります

エステや語学教室などが対象になるのは、一定の期間を超え、かつ金額が大きい場合です。

法第四十一条第一項第一号の政令で定める金額は、五万円とする (特定商取引法施行令24条2項)

対象は「エステティックサロン、語学教室など7つの役務」(消費者庁)です。

🔴 通信販売にクーリング・オフはありません

ネット通販は、この制度の対象外です。自分から選んで申し込んでいるからです。

代わりに15条の3があります。ただし、中身がかなり違います。

訪問販売など 通信販売
制度 クーリング・オフ 返品の権利(15条の3)
数え始め 法定書面を受け取った日 商品の引渡しを受けた日
期間 8日 8日
返送費用 業者の負担 購入者の負担
特約で外せるか 不可(不利な特約は無効) 可(広告に表示していれば)

条文の但し書きがポイントです。

ただし、当該販売業者が申込みの撤回等についての特約を当該広告に表示していた場合……には、この限りでない (特定商取引法15条の3第1項)

⚠️ここに注意

通販サイトに「返品不可」と書いてあれば、そちらが優先されます。 逆に、返品について何も書いていないサイトなら、受け取った日から8日以内は返品できます。

使えない場合もあります

正直に書いておきます。適用されないケースが条文にあります。

  • 3,000円未満の現金取引(施行令17条で金額は「三千円」と定められています)
  • 自分から来てほしいと頼んだ訪問販売(26条6項1号:「その住居において……締結することを請求した者に対して行う訪問販売」)
  • 営業のための契約(26条1項1号)
  • 化粧品や健康食品など政令で定める消耗品を使ってしまった場合(26条5項1号)

📝補足

「自分から呼んだ場合」は対象外ですが、「点検に来ます」と言われて来てもらったのは自分から請求したことになりません。 判断が微妙なので、消費生活センター(188)で確認してください。

実際の手順

図解④ やること

1

書面を受け取った日を確認。ここが起算日です

▼

2

期限内に通知を出す。書面または電磁的記録(メール等)。契約日・商品名・「契約を解除します」を書きます

▼

3

出した記録を残す。効力は「発した時」なので、いつ出したかが決め手になります

▼

4

クレジット契約もしているなら信販会社にも同時に通知。迷ったら188へ

🔍CHECK

業者に電話だけして終わりにしないでください。 条文が効力を認めているのは「書面又は電磁的記録による通知」です。記録が残る形にしてください。

まとめ

「契約書にサインしましたよね。もうキャンセルはできません」

  • 数え始めは契約日ではなく、法律で決められた書面を受け取った日
  • 書面を渡されていなければ、期間はまだ始まっていません
  • 通知は発した時に効力が生じます。期限日に出せば間に合います
  • 違約金は請求できず、引取り費用は業者負担。使った分の対価も請求されません
  • 工事をされていても、原状回復を無償で請求できます
  • 「クーリング・オフできません」と言われて期間を過ぎたなら、期間は延びる可能性があります
  • 契約書の「クーリング・オフ不可」条項は無効です
  • マルチ商法・内職商法は20日。通信販売はこの制度の対象外です

「もうキャンセルできません」と言われたときは、日付の話に戻してください。

「法律で決められた書面は、いつ渡していただきましたか?」

そのうえで、消費生活センター(188)に相談してください。判断が難しいケースほど、そこが早道です。


実際にこの制度が問題になる場面は、「今すぐ外壁塗装が必要です」やウォーターサーバー「本体無料」にまとめています。契約前の共通の確認手順は営業されたら確認する10項目へ。

📋 契約前にここを確認

  • 法律で決められた書面(契約書面)を受け取っていますか?
  • 受け取ったのはいつですか?(契約日ではなく、その日が起算日です)
  • その取引は訪問販売ですか、通信販売ですか?(通販は制度が別です)
  • 「クーリング・オフできない」と言われませんでしたか?(それ自体が期間延長の理由になり得ます)
  • 通知は記録が残る方法で出しましたか?

参照した情報源

  1. 特定商取引に関する法律 第9条(訪問販売における契約の申込みの撤回等)/第15条の3(通信販売における契約の解除等)/第24条・第40条・第48条・第58条・第58条の14/第26条(適用除外)・e-Gov法令検索
  2. 特定商取引に関する法律施行令 第17条(申込みの撤回等ができない売買契約等に係る商品の代金等の金額=3,000円)/第24条(特定継続的役務提供の期間及び金額=5万円)・e-Gov法令検索
  3. 消費者庁「特定商取引法ガイド 特定商取引法とは」(7つの取引類型)
  4. 消費者庁「特定商取引法ガイド 訪問販売」(クーリング・オフの期間)
  5. 消費者庁「特定商取引法ガイド 連鎖販売取引」(20日間)

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