🧭 営業の基本

「経費で落とせるから、実質タダです」は本当? 戻ってくるのは、税率の分だけです

🗣️営業トーク

「個人事業主さんなら、これは経費で落とせますから、実質タダみたいなものですよ」

結論

国税庁によると、必要経費は事業所得などの金額を計算するときに収入から差し引くものです。経費にすると所得が減り、その所得にかかる所得税と住民税が減ります。減る税金は、支出した額にその人の税率をかけた分です。当サイトの計算では、所得税率10%(復興特別所得税を含めて10.21%)と住民税10%の人が30万円のパソコンを全額経費にしても、戻ってくる税金は約6万円で、残りの約24万円は自分の負担です。所得税率がいちばん高い45%の人でも、支出の4割強は自分で払います。さらに、私用と兼ねる物は、仕事に直接必要だったと明らかに区分できる分しか経費になりません。10万円以上の物は、原則として何年かに分けて経費にします。「経費で落とせる」は、「その分の税金が少し減る」という意味です。

個人事業を始めた人、副業で稼ぎ始めた人が、高い買い物をするときによく聞く言葉があります。

「個人事業主さんなら、これは経費で落とせますから」

「実質タダみたいなものですよ」

パソコン、車、スマートフォン、講座、コンサルティング。値段が高いほど、この言葉は心強く聞こえます。

でも、経費で落とすと、実際にはいくら戻ってくるのでしょうか。 この記事では、国税庁の説明をもとに計算します。

先に結論

この記事の結論

経費は

税金を計算するもとの所得を減らすだけ

▼

減る税金は

支出×税率。所得税10%・住民税10%なら、30万円の支出で約6万円

▼

私用と兼ねる物は

仕事の分だけが経費。10万円以上の物は、原則何年かに分けて

▼

だから

「経費で落とせる」は、「税金が少し減る」という意味

🔴 経費は、所得を減らすだけです

国税庁は、必要経費をこう説明しています。

事業所得、不動産所得および雑所得の金額を計算する上で、必要経費に算入できる金額は、次の金額です。 (1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額 (2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額 (国税庁「No.2210 必要経費の知識」)

所得の計算は、収入から経費を引くことです。経費が増えれば所得が減り、所得にかかる税金が減ります。

図解① 経費で「減る」もの

①

収入 − 経費 = 所得

▼

②

所得 × 税率 = 税金

▼

だから

経費を30万円増やすと、減る税金は30万円×税率。30万円そのものは戻らない

当サイトが作成。所得控除などは省略した考え方の図

支払ったお金が戻ってくるのではありません。戻るのは、その分にかかるはずだった税金です。

住民税も、所得税と同じ計算で出した所得をもとにかかります(地方税法32条2項)。税率は標準で合わせて10%です(同35条・314条の3)。だから経費は、所得税と住民税の両方を減らします。

🔴 数字で見ると

30万円のパソコンを、仕事だけに使い、その年に全額を経費にした場合です(当サイトの計算)。

所得税率 減る税金(所得税+住民税) 自分の負担 負担の割合
5% 約4.5万円 約25.5万円 約85%
10% 約6.1万円 約23.9万円 約80%
20% 約9.1万円 約20.9万円 約70%
33% 約13.1万円 約16.9万円 約56%

(所得税率は国税庁 No.2260の区分。所得税には復興特別所得税2.1%を加え、住民税は10%として当サイトが計算。個人事業税は含めていません)

約24万円所得税率10%の人が30万円を経費にしたときの自分の負担(当サイトの計算)

所得税率が33%の人でも、半分以上は自分のお金です。 いちばん高い45%の区分でも、減る税金は支出の約56%で、約44%は自分で払います。「実質タダ」になる税率は、ありません。

💰実際は

そもそも税金がかからない人は、経費を増やしても何も戻りません。 始めたばかりで所得が少ない、赤字である。そういうときは、減らせる税金がもともとありません。「経費で落とせる」の効き目は、その人がどれだけ税金を払っているかで決まります。

私用と兼ねる物は、仕事の分だけです

パソコンや車、スマートフォンは、仕事にも私生活にも使うことが多い物です。国税庁は、こう書いています。

家事上の費用は必要経費となりませんが、個人の業務においては一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある費用(家事関連費といいます。)となるものがあります。 ……この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。 (国税庁「No.2210 必要経費の知識」)

仕事で使うのが半分なら、経費になるのは半分です。上の表の「減る税金」も、その分だけ小さくなります。「全部落とせますよ」と言われたら、何割を仕事に使うのかを自分で考えてください。

10万円以上の物は、原則として何年かに分けます

減価償却資産の取得に要した金額は、取得した時に全額必要経費になるのではなく、その資産の使用可能期間の全期間にわたり分割して必要経費としていくべきものです。 (国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」)

国税庁の説明では、扱いは金額で変わります。

取得価額 経費にする方法
10万円未満 使い始めた年に全額
10万円以上20万円未満 一定の要件のもと、3年間で3分の1ずつにできる
10万円以上40万円未満(青色申告者の特例) 一定の要件のもと、使い始めた年に全額にできる(年300万円まで。令和8年3月31日までに取得した物は30万円未満が対象)
それ以外 耐用年数にわたって分けて経費にする

(国税庁 No.2100から当サイトが整理)

車のように高い物は、ふつう何年もかけて経費にします。 その年に戻る税金は、上の表よりさらに小さくなります。

とはいえ、営業側にも一理ある部分

  • 経費になること自体は本当です。 仕事に必要な物なら、経費にしない理由はありません。所得税と住民税が、その分だけ確かに減ります
  • 税率が高い人ほど、減る税金は大きくなります。所得税率33%の人なら、30万円の支出で約13万円です
  • 仕事の道具への投資は、売上を増やすこともあります。経費になるかどうかより、仕事に役立つかどうかで判断するなら、それは健全な買い物です
  • ただし、「経費で落とせるから」を買う理由にすると、逆になります。いらない物を買えば、税金が少し減っても、手元のお金はもっと減ります

こんな時は要注意

  • 「実質タダ」「実質ゼロ円」と言われた
  • 「全部経費になりますよ」と言われた(私用と兼ねる物なのに)
  • 高額な講座やコンサルティングを、「経費になるから」と勧められた
  • 自分の税率を聞かれないまま、「得です」と言われた
  • まだ所得がほとんどないのに、「節税になる」と言われた

まとめ

「経費で落とせるから、実質タダです」

  • 🔴 経費は、税金を計算するもとの所得を減らすだけです(国税庁)
  • 🔴 減る税金は支出×税率。所得税10%・住民税10%の人なら、30万円で約6万円、残り約24万円は自分の負担です(当サイトの計算)
  • 所得税率33%の人でも半分以上、いちばん高い45%の人でも4割強は自分のお金です
  • 私用と兼ねる物は、仕事の分だけが経費です
  • 10万円以上の物は、原則として何年かに分けて経費にします
  • 税金がかからない人は、経費を増やしても何も戻りません

聞くのは、この一問です。

「私の税率だと、実際にいくら戻りますか?」


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📋 契約前にここを確認

  • それは、仕事がなくても買いますか?
  • 仕事で使う割合は、何割ですか?(私用と兼ねるなら、その割合しか経費になりません)
  • 自分の所得税率は何%ですか?(戻るのは支出×税率の分だけです)
  • そもそも、税金がかかるほどの所得がありますか?
  • 10万円以上の物なら、何年に分けて経費になりますか?
  • 経費になる分を差し引いても、その買い物は必要ですか?

参照した情報源

  1. 国税庁「No.2210 必要経費の知識」(令和8年4月1日現在法令等)
  2. 国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」(令和8年4月1日現在法令等)
  3. 国税庁「No.2260 所得税の税率」(令和8年4月1日現在法令等)
  4. e-Gov 地方税法 第32条(所得割の課税標準)・第35条・第314条の3(所得割の税率)

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