「話を聞くだけでもどうですか」は本当? 断る技術は、会った後の道具です
営業トーク
「契約しなくて構いません。話を聞くだけでもどうですか」
結論
断る技術は、会ってしまった後の道具です。クーリング・オフも消費者契約法の取消しも、後始末の制度で、使うには手間も期限もあります。会う前に効くのは法律ではなく設定のほうです。知らない番号に出ない、モニターで確認してから玄関を開ける、ポストに表示を出す。この3つで接点の大半は消えます。そして会ってしまったときは、最初に「営業のお電話ですか」と聞いてください。事業者には勧誘に先立って目的を告げる義務があります。
玄関先で、あるいは電話口で言われます。
「契約しなくて構いません。話を聞くだけでもどうですか」
断りにくい言い方です。契約を迫られているわけではないので、断る理由が見つからない。
この記事は、断り方の話ではありません。 その手前の話です。
先に結論
この記事の結論
断る技術は
会ってしまった後の道具です。クーリング・オフも取消しも、全部後始末です
会う前に効くのは
法律ではなく設定です。出ない・開けない・貼る
それでも会うなら
最初の一言で「営業のお電話ですか」。事業者には名乗る義務があります
数字で見ると
80歳以上は相談の3割が「向こうから来た」取引。点検商法は4年で2.7倍
分かれ目は
どちらが先に接点を作ったか。自分から探した営業は、この話に含みません
🔴 断る技術は、全部「会った後」の道具です
このサイトでも、断るための制度を扱ってきました。並べてみると、あることに気づきます。
| 制度 | 使えるようになるのは | 何をするものか |
|---|---|---|
| クーリング・オフ | 契約した後 | 契約をなかったことにする |
| 消費者契約法の取消し | 契約した後 | 契約を取り消す |
| 特商法の再勧誘禁止 | 断った後 | 次の勧誘を止める |
全部、後ろ向きの道具です。 契約してから、あるいは断ってから、やっと働きます。
図解① 法律が守ってくれる区間
接点ができる前
法律の出番はありません。ここは自分の設定でしか防げません
会っている間
名乗る義務はありますが、話を聞くこと自体は止められません
断った後・契約した後
ここでようやく再勧誘禁止・取消し・クーリング・オフが働きます
つまり
いちばん手前の区間は、法律ではなく設定の仕事です
実際は
「断る技術」を磨くのは、会う前提の話です。 会わなければ、その技術は要りません。
数字で見ると、向こうから来る取引は重い
2025年の消費生活相談は97.0万件(前年90.7万件)。1件あたりの金額はこうです。
請求された、又は契約した金額である「平均契約購入金額」が88.7万円、実際に支払った金額である「平均既支払額」が50.1万円……いずれも前年より増加しています (消費者庁「令和7年度 消費者政策の実施の状況」・2026年6月)
「話を聞くだけ」の先にあるのは、この規模の金額です。
点検商法は、4年で2.7倍になっています
いま増えているのが、点検を口実にした訪問と電話です。
| 2021年 | 2025年 | |
|---|---|---|
| 「点検商法」に関する相談件数 | 7,395件 | 2万58件 |
(同・消費者庁)
白書が挙げている事例です。
「給湯器を無料点検する業者が来訪し、『焦げているので交換した方がよい』と言われ約50万円の契約を行った。 その後、近所の別の業者に見てもらったところ、交換の必要はないことが判明し、取り消したい」 「分電盤の点検について電話が掛かってきた。消防署から認定を受けた作業員が点検に伺うと言う。本当か」
「無料点検」は、接点を作るための入口として使われています。屋根や外壁のパターンは「今すぐ外壁塗装が必要です」は本当?にまとめました。
🔴 80歳以上は、相談の3割が「向こうから来た」取引です
年齢層で、はっきり差が出ます。販売購入形態別の割合です。
| 訪問販売 | 電話勧誘販売 | 訪問購入 | 合計 | |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 8.0% | 6.7% | 0.8% | 15.5% |
| 70歳代 | 9.4% | 8.0% | 1.2% | 18.6% |
| 80歳以上 | 18.4% | 9.9% | 2.3% | 30.6% |
(同・消費者庁/2025年・PIO-NET登録分)
80歳以上では、訪問販売の割合が全体の2.3倍になります。ネット通販の相談が中心の若い層とは、まったく形が違います。
ここに注意
離れて暮らす親がいる人へ。 この記事の設定は、自分より先に親の家でやるほうが効きます。 玄関のモニター、知らない番号の扱い、ポストの表示。全部、親の家のほうが効果が大きいという数字です。
🔴 最初の一言で、見分けられます
会ってしまったとき、あるいは電話に出てしまったとき。法律が使える場面が、実は最初にあります。
訪問販売の場合(特商法3条)
販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売をしようとするときは、その勧誘に先立つて、その相手方に対し、①販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、②売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をする目的である旨及び③当該勧誘に係る商品若しくは権利又は役務の種類を明らかにしなければならない。 (特定商取引に関する法律 第3条・番号は引用者)
電話勧誘販売の場合(特商法16条)
……その勧誘に先立つて、その相手方に対し、①販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称及び②その勧誘を行う者の氏名並びに③商品……の種類並びに④その電話が売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げなければならない。 (同 第16条・番号は引用者)
図解② 名乗る義務は「勧誘に先立って」です
こう始まったら
「近所で工事をしていまして」「アンケートのご協力を」「無料点検のご案内です」
まだ言っていないのは
「勧誘の目的である」という一言。法律が先に言えと定めている部分です
だから聞けます
「これは営業のお話ですか」──答える義務があります
この一問は、断り文句ではありません。 相手が果たすべき義務を、こちらから確認しているだけです。答えが濁るなら、それ自体が判断材料になります。
そして「いりません」は、言葉にしないと効きません
販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約を締結しない旨の意思を表示した者に対し、当該売買契約又は当該役務提供契約の締結について勧誘をしてはならない。 (同 第3条の2第2項。電話勧誘販売は第17条に同じ規定)
「断った後」からしか働きません。 黙って聞いている間、勧誘は止まりません。
なお、その前段には努力義務も置かれています。
販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売をしようとするときは、その相手方に対し、勧誘を受ける意思があることを確認するよう努めなければならない。 (同 第3条の2第1項)
「努めなければならない」です。確認しないこと自体で違法にはなりません。
接点を作らない、5つの設定
法律の手前は、設定でしか防げません。どれも今日できます。
図解③ 5つの入口を、順に閉じる
① 電話
知らない番号には出ない。かけ直す前に、その番号を検索する
② 玄関
誰が来たか確認してから開ける。モニター付きのインターホンが効きます
③ ポスト
受け取らない表示を出す。数百円で、入る量が変わります
④ 固定電話
本当に必要か見直す。番号が表示されない機種は、判断材料がありません
⑤ ネットの受け口
SNSのメッセージ受信設定・メールの公開範囲を絞る
③のポストの表示については、効き方に限界があります。 チラシには効きますが、訪問販売を法的に止める力はありません。そこは「お断りステッカーを貼ればセールスは来なくなる」は本当?で分けて書きました。
補足
この5つは、全部「向こうから来るもの」だけを止めます。 自分から探した業者、自分で呼んだ相見積もりには、何も影響しません。 止めているのは経路であって、選択肢ではありません。
🔴 なぜ「聞くだけ」が難しいのか
「要らないと分かっているから、話だけ聞いても大丈夫」と考える人がいます。構造を見ると、条件が対等ではありません。
図解④ その場にいる2人の条件
相手は
毎日それをやっています。断り文句への返しも、順番も、決まっています
こちらは
年に数回です。その商品を調べたことも、比べたこともありません
しかも
相手は資料も見積もりも用意して来ています。こちらは手ぶらです
だから
「聞くだけ」は、相手が慣れている場所で話すということです
相手の能力を低く見る必要はありません。 むしろ逆で、話がうまい人ほど、聞くだけでは終わりません。 それは相手が悪いのではなく、そういう仕事だからです。
それでも会ってしまったら
消費者契約法に、その場で使える条文があります。困惑させられて契約した場合、取り消せます。
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。 一 ……その住居……から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。 二 ……勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。 四 ……当該消費者契約を締結するか否かについて相談を行うために電話その他の……方法によって当該事業者以外の者と連絡する旨の意思を示したにもかかわらず、威迫する言動を交えて、当該消費者が当該方法によって連絡することを妨げること。 (消費者契約法 第4条第3項)
四号が、その場で効きます。
CHECK
その場で言える一言です。 「家族に相談したいので、いま電話します」 これを威迫する言動を交えて妨げられたら、契約は取り消せます。 妨げられなければ、そのまま電話して、その場を離れる理由ができます。
同条3項には、加齢や心身の故障で判断力が著しく低下している人の不安をあおって契約させた場合の取消し(七号)も置かれています。高齢の家族の契約は、この条文の対象になることがあります。
契約してしまった後の手順はクーリング・オフの使い方にまとめました。
とはいえ、営業が全部いらないわけではありません
ここは分けて書きます。この記事が言っているのは「営業に近づくな」ではありません。
図解⑤ 分かれ目は、どちらが先に接点を作ったか
自分から探した営業
見積もりを取る。比べる。これは必要な手続きです
向こうから来た営業
こちらは比べる準備も、必要かの判断もしていません
同じ商品でも
始まり方が違えば、条件が違います。止めているのは後者だけです
必要なものは、必要になったときに自分で探せます。 そのときは、こちらが複数から選ぶ側になります。順番が逆になるだけで、立場が変わります。
聞かれたときに確認する4つ
図解⑥ 玄関先・電話口で
①
「これは営業のお話ですか」(名乗る義務があります)
②
「会社名とお名前を教えてください」(これも義務です)
③
「いりません」とはっきり言う(言うまで再勧誘禁止は働きません)
④
迷ったら「家族に相談します」と言って、その場で電話する
困ったときの相談先は、消費者ホットライン「188(いやや)」です。局番なしでかけると、近くの消費生活センターにつながります。
まとめ
「話を聞くだけでもどうですか」
- 断る技術は、会った後の道具です。クーリング・オフも取消しも、後始末の制度です
- 会う前の区間には、法律の出番がありません。 設定でしか防げません
- 消費生活相談の平均契約購入金額は88.7万円(2025年)
- 点検商法の相談は2万58件。 2021年(7,395件)の2.7倍です
- 🔴 80歳以上は、相談の30.6%が訪問販売・電話勧誘・訪問購入。 全体(15.5%)の2倍です
- 事業者には勧誘に先立って「営業目的である」と告げる義務があります(特商法3条・16条)
- 「いりません」と言葉にするまで、再勧誘禁止は働きません(同3条の2第2項・17条)
- 🔴 「家族に相談します」を威迫して妨げられたら、契約は取り消せます(消費者契約法4条3項4号)
- 止めているのは経路であって、選択肢ではありません。自分から探す営業は別の話です
聞かれたときに確かめるのは、この一問です。
「これは営業のお話ですか」
そして、自分に確かめる一問です。
「この話は、私が探したものですか」
答えが「いいえ」なら、聞かないという選択が、いちばん安く済みます。
営業を受けたときの確認手順は営業されたら確認する10項目、契約してしまった後はクーリング・オフの使い方、ポストに入るチラシは「お断りステッカーを貼ればセールスは来なくなる」は本当?にまとめています。
📋 契約前にここを確認
- その連絡は、自分から求めたものですか?(向こうから来たものですか)
- 最初の一言で「営業の目的」を名乗りましたか?(名乗る義務があります)
- 知らない番号にかけ直す前に、その番号を検索しましたか?
- 玄関を開ける前に、誰が来ているか確認できますか?
- 「いりません」と言葉にしましたか?(言うまで再勧誘禁止は働きません)
- その場で「家族に相談します」と言えますか?