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「相続税対策になりますよ」は本当? 9割の人に、その対策は要りません

🗣️営業トーク

「このままだと相続税が大変ですよ。アパートを建てれば評価が下がって、相続税対策になります」

結論

相続対策と相続税対策は、別のものです。相続税がかかるのは亡くなった人の10.4%で、9割にはそもそも関係がありません。一方、家庭裁判所で決着した遺産分割の77.5%は遺産5,000万円以下、つまり相続税がかからない層でもめています。必要なのは「誰に何を渡すか」と「どこに何があるか」を決めておくことです。不動産で相続税は確かに下がりますが、下がるのは税額であって、資産ではありません。まず自分に相続税がかかるかどうかを確かめてください。

親が高齢になると、声がかかります。

「このままだと相続税が大変ですよ」

「アパートを建てれば評価が下がって、相続税対策になります」

説明を聞くと、確かに筋は通っています。仕組みとしては、本当に下がります。

ただ、その前に確かめることがあります。

先に結論

この記事の結論

相続税がかかるのは

亡くなった人の10.4%です。9割には、そもそも関係がありません

▼

一方、もめているのは

家庭裁判所で決着した遺産分割の77.5%が遺産5,000万円以下。相続税がかからない層です

▼

不動産で税額は下がります

それは事実です。ただし下がったのは「税額」であって、資産ではありません

▼

賃貸用の空き家は

443万6千戸。空き家全体の49.3%が、貸すために空いています

▼

必要なのは

相続対策(誰に何を渡すか・どこに何があるか)。相続税対策ではありません

🔴 まず、あなたに相続税はかかりますか

いちばん先に確かめるのはここです。国税庁が毎年公表しています。

10.4%(相続税の課税割合・令和6年分)

令和6年分における被相続人数(死亡者数)は 1,605,378人……そのうち相続税の申告書の提出に係る被相続人数は 166,730人 課税割合(②/①)……10.4% (国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」・令和7年12月)

約9割は、相続税の対象になっていません。 基礎控除が大きいからです。

遺産に係る基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 (国税庁 No.4152「相続税の計算」)

法定相続人の数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人(配偶者+子1人など) 4,200万円
3人(配偶者+子2人など) 4,800万円
4人 5,400万円

この額を超えなければ、相続税はかかりません。 申告も原則として要りません。

🔍CHECK

「相続税が大変です」と言われたら、最初の一問はこれです。 「うちの財産は、基礎控除をいくら超えていますか」 超えていないなら、その先の話は全部いりません。

なお配偶者には配偶者の税額軽減があり、1億6,000万円か法定相続分のどちらか多い額まで相続税がかかりません。基礎控除を超えていても、一次相続では税額が出ないことがあります。

🔴 もめているのは、相続税がかからない層です

ここが、この記事のいちばん重要なところです。

「相続で困る」と「相続税で困る」は、別のことです。 司法統計を見ると、はっきりします。

令和7年に家庭裁判所で認容または調停成立した遺産分割事件は 8,399件。その遺産の価額別の内訳です。

遺産の価額 件数 割合
1,000万円以下 2,967件 35.3%
5,000万円以下 3,541件 42.2%
1億円以下 948件 11.3%
5億円以下 544件 6.5%
5億円を超える 60件 0.7%
算定不能・不詳 339件 4.0%
合計 8,399件 100%

(最高裁判所「令和7年 司法統計年報 3 家事編」第53表)

77.5%(もめた遺産分割のうち、遺産5,000万円以下)

5,000万円以下が6,508件、全体の77.5%。 1,000万円以下だけで35.3%です。

前の章の基礎控除を思い出してください。相続人が2人なら4,200万円、3人なら4,800万円まで相続税はかかりません。 つまり、

図解① もめている層と、課税される層は違います

もめている層

遺産5,000万円以下が77.5%。ほとんどが相続税のかからない層です

▼

課税される層

亡くなった人の10.4%。もめた件数のうち1億円超は7.5%しかありません

▼

だから

相続で実際に起きている問題は、税額ではなく分け方のほうです

同じ統計から、もう2つ。

  • 代理人弁護士が関与したもの:7,047件(83.9%)
  • 審理に1年を超えたもの:3,490件(41.6%)

8割超で弁護士が入り、4割は1年以上かかっています。 これが「相続でもめる」の実態です。相続税を1円も払わない人たちの間で起きています。

💰実際は

相続対策は必要です。相続税対策とは別物です。 ・誰に何を渡すかを決めておく ・どこに何があるかを分かるようにしておく ・数を増やさない(口座も不動産も) 統計が示しているのは、こちらのほうが実際に起きている、ということです。

それでも、税額は確かに下がります

ここは正直に書きます。仕組みとしては、本当に下がります。 営業の説明は、この部分については正しい。

現金は、額面がそのまま評価額になります。不動産は違います。

土地(貸家建付地)

貸家建付地の価額 = 自用地としての価額 − 自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合 (国税庁 No.4614「貸家建付地の評価」)

建物(貸家)

建物は固定資産税評価額で評価され、貸していればさらに下がります。国税庁の計算例です。

家屋の固定資産税評価額が1,000千円、借家権割合が30%である地域、賃貸割合が100%である場合 1,000千円 − 1,000千円 × 30% × 100% = 700千円 (国税庁 No.4602「土地家屋の評価」)

借入金は、満額引けます

そして借金は債務控除として、額面がそのまま差し引かれます。

図解② なぜ「下がる」のか

現金1億円は

1億円として評価されます。1円も下がりません

▼

建物に変えると

固定資産税評価額になり、貸せばさらに借家権割合の分下がります

▼

土地は

路線価等で評価され、貸家を建てれば貸家建付地としてさらに下がります

▼

借りたお金は

額面がそのまま債務控除。ここに差が生まれます

ここまでは、営業の説明どおりです。 問題はこの先です。

🔴 下がったのは「税額」です。「資産」ではありません

営業トークをよく読むと、こう言っています。

🗣️営業トーク

アパートを建てれば評価が下がって、相続税対策になります

🔍CHECK

下がるのは相続税です。 「手元に残るお金が増える」とは、一言も言っていません。

💰実際は

減ったもの:国に納める相続税 払ったもの:建築費・銀行への利息・修繕費・空室期間の家賃・管理費・原状回復費 この2つは、別の勘定です。足し引きした結果が書かれていません。

図解③ 2つの勘定を並べる

相続税の勘定

評価が下がった分だけ、税額は確実に減ります

▼

事業の勘定

建築費・金利・修繕・空室。こちらは20年30年かけて出ていきます

▼

そして

税額は一度きり。事業の損はずっと続きます

▼

確かめること

「税金がいくら減るか」ではなく「差し引きでいくら残るか」

節税額は、契約前に計算して見せてもらえます。 空室率と家賃下落は、見せてもらえません。その非対称が、この商品の性質です。

賃貸用の空き家は、443万6千戸あります

「借り手はいるのか」を、統計で確かめます。

空き家数は900万2千戸と過去最多、空き家率も13.8%と過去最高 (総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」・令和6年9月25日)

その内訳です。

空き家の種類 戸数 割合
賃貸用の空き家 443万6千戸 49.3%
売却用の空き家 32万6千戸 3.6%
二次的住宅(別荘など) 38万4千戸 4.3%
賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家 385万6千戸 42.8%
合計 900万2千戸 100%
49.3%(空き家のうち、貸すために空いている住宅)

空き家のほぼ半分は「貸したいのに借り手がいない住宅」です。 放置された古家の話ではありません。

これから建てるアパートは、この443万戸と同じ市場で借り手を取り合います。

⚠️ここに注意

「うちの土地は大丈夫」かどうかは、統計では分かりません。 分かるのは、全体としては供給が余っているということだけです。 だからこそ、その土地の需要を自分で確かめる必要があります。

🔴 国土交通省が、名指しで注意しています

サブリース(一括借り上げ)は、この営業とほぼセットで出てきます。国が規制をかけた経緯そのものが、この記事の話です。

相続をきっかけに事業を始める等、事業経験の浅い賃貸人(オーナー)が増加しており、受託管理やサブリースを利用する比率も高まってきています。 このような中、サブリース業者がオーナーになろうとする方に対して、家賃の見直しやマスターリース契約の解除の条件など、サブリース方式での賃貸経営に係る潜在的なリスク・デメリットの説明を十分に行っていないケースが多く、契約内容を誤認したままマスターリース契約を締結してしまうことによるトラブルが多発しています。 (国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」)

「言わないと違法」の項目が、そのまま答えです

賃貸住宅管理業法は、故意に事実を告げない行為(事実不告知)を禁じています。その具体例を国交省が挙げています。

将来の家賃減額リスクがあること、契約期間中であってもサブリース業者から契約解除の可能性があることや借地借家法の規定によりオーナーからの解約には正当事由が必要であること、オーナーの維持保全、原状回復、大規模修繕等の費用負担があること等について、あえて伝えず、サブリース事業のメリットのみ伝えるような勧誘行為

サブリース契約における新築当初の数ヶ月間の借り上げ賃料の支払い免責期間があることについてオーナーとなろうとする者に説明しない行為

不実告知の具体例も挙がっています。

「原状回復費用はサブリース会社が全て負担するので、入退去で大家さんが負担することはない」といったことを伝える行為 「維持修繕費用は全て事業者負担である」といったことを伝える行為

図解④ 「30年一括借り上げ」の中身

家賃は

減額されることがあります。借地借家法があるため、契約書に何と書いてあっても

▼

契約は

業者側から解除されることがあります。逆にオーナーから解約するには正当事由が要ります

▼

費用は

維持保全・原状回復・大規模修繕はオーナー負担になることがあります

▼

最初の数か月は

免責期間で家賃が入らないことがあります

▼

つまり

「30年」は契約期間であって、金額の保証ではありません

これらは全部、国が「説明しないと違法」と定めた項目です。 裏を返せば、説明されないまま契約されてきたということです。

しかも、評価のルールは動きます

「今の計算」で20年後の相続を設計する話ですが、計算のルール自体が変わります。

2024年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から、分譲マンションの評価方法が変わりました。

「居住用の区分所有財産」……令和6年1月1日以後の相続、遺贈または贈与 評価水準 < 0.6 の場合:区分所有補正率 = 評価乖離率 × 0.6 (国税庁 No.4667「居住用の区分所有財産の評価」)

国税庁は、見直しの理由をこう説明しています。

マンションの「相続税評価額」については、「時価(市場売買価格)」との大きな乖離が生じているケースも確認されています。 評価額が市場価格理論値の60%……に達しない場合は60%に達するまで評価額を補正する。 (国税庁「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について」)

時価の6割まで、評価が引き上げられます。 圧縮の幅が、その分だけ縮みました。

📝補足

相続がいつ起きるかは選べません。 そのとき有効なのは、そのときのルールです。 20年後の相続に、いま説明されている計算がそのまま残っている保証はありません。

では、何をすればいいのか

統計が示しているのは、もめるのは金額の大小ではないということでした。だとすれば、やることは変わります。

図解⑤ 相続税対策ではなく、相続対策

① 誰に何を渡すか決める

遺言でも、家族での合意でも。決まっていないことが、もめる原因です

▼

② 在り処を一覧にする

口座・保険・不動産・借入。探すところから始まる相続が、いちばん長引きます

▼

③ 数を増やさない

口座も不動産も。分けやすい形にしておくほうが、実務は軽くなります

▼

この3つに対して

アパートを建てることは、①②③のすべてと逆方向に働きます

不動産は、現金のように分けられません。 相続人が3人いれば、共有にするか、誰かが取って他に代償金を払うか、売って分けるかになります。そして借入金も一緒に引き継がれます。

「相続税を減らすために建てた建物が、分けられなくてもめる」──対策が問題を作る形です。

とはいえ、成り立つ場合もあります

ここも正直に書きます。否定しきれる話ではありません。

  • すでに相続税がかかることが確定している(基礎控除を大きく超えている)
  • すでに賃貸需要のある土地を持っている(買うのではなく、活用する)
  • 相続人に、引き継いで経営する意思がある
  • 借入なしか、返済が家賃に依存しない

この4つが揃うなら、話は変わります。

🔍CHECK

🔴 「持っている土地を活用する」と「対策のために土地を買う」は、別の話です。 前者は、すでにある資産の使い道の問題。 後者は、新しく事業を始めるという話です。

聞かれたときに確認する4つ

図解⑥ 提案を受けたら

①

うちの財産は基礎控除をいくら超えていますか(超えていないなら、ここで終わり)

▼

②

減る税額と、30年間に払う総額を並べた表を出してください

▼

③

家賃が10年後・20年後にいくらになる前提ですか。空室率は何%ですか

▼

④

この建物を、相続人の誰が引き継ぎますか。他の人には何を渡しますか

①で終わる人が、大半です。 そして④に答えられないなら、相続対策としては何も進んでいません。

まとめ

「相続税対策になりますよ」

  • 相続税がかかるのは、亡くなった人の10.4%(国税庁・令和6年分)
  • 基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数。相続人3人なら4,800万円
  • 🔴 家庭裁判所で決着した遺産分割の77.5%が遺産5,000万円以下。もめているのは、相続税がかからない層です
  • そのうち83.9%に弁護士が入り、41.6%が1年以上かかっています
  • 不動産で税額は確かに下がります。貸家・貸家建付地の評価減と、借入金の債務控除
  • 🔴 ただし下がったのは税額です。建築費・金利・修繕費・空室は別の勘定で出ていきます
  • 賃貸用の空き家は443万6千戸。空き家の49.3%が、貸したいのに借り手のいない住宅です
  • 🔴 国土交通省が「相続をきっかけに事業を始める経験の浅いオーナー」のトラブルが多発していると明記しています
  • サブリースの「30年」は契約期間であって、金額の保証ではありません
  • 2024年1月から分譲マンションの評価方法が変わりました。 ルールは動きます

聞かれたときに確かめるのは、この一問です。

「うちの財産は、基礎控除をいくら超えていますか」

そして、自分に確かめる一問です。

「相続で困るのは、税金ですか。分け方ですか」

統計が答えているのは、後者のほうです。


不動産そのものの見方は「持ち家は資産になります」は本当?、借入の考え方は「変動金利のほうが得です」は本当?、「今しかない」と言われたときは「今が買い時です」は本当?にまとめています。

📋 契約前にここを確認

  • 自分(または親)の財産は、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えていますか?
  • 超えていないなら、その対策は誰のためのものですか?
  • 減るのは「税額」ですか、それとも「払う総額」ですか?
  • その土地に、これから20年間の借り手はいますか?
  • 家賃の減額・契約解除・修繕費の負担について、書面で説明を受けましたか?
  • 誰に何を渡すかは、決まっていますか?(もめるのは金額の大小ではありません)

参照した情報源

  1. 国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(令和7年12月・課税割合10.4%)
  2. 最高裁判所「令和7年 司法統計年報 3 家事編」第53表(遺産分割事件のうち認容・調停成立件数―遺産の価額別)
  3. 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」(令和6年9月25日・空き家900万2千戸/賃貸用の空き家443万6千戸)
  4. 国税庁 No.4152「相続税の計算」(基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数)
  5. 国税庁 No.4614「貸家建付地の評価」
  6. 国税庁 No.4602「土地家屋の評価」(貸家の評価・借家権割合30%の計算例)
  7. 国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト 適正化のための措置」(サブリース規制・事実不告知と不実告知の具体例)
  8. 国税庁 No.4667「居住用の区分所有財産の評価」(令和6年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用)
  9. 国税庁「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について」(相続税評価額と市場価格の乖離の実態)

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