「今が買い時です」は本当? 未来のことを断定するのは、法律で禁じられています
営業トーク
「今は株が安いので買い時です。今買っておけば儲かりますよ」
結論
将来の値動きを断定して勧誘することは、金融商品取引法38条2号で禁止されています。言われて「確実だ」と誤認して契約した場合は、消費者契約法4条1項2号により取り消せます(気づいてから1年・契約から5年以内)。安いかどうかは後になってから分かることで、勧誘の時点で誰も知りません。つみたて投資枠の法律上の定義も「一定額を定期的に継続して」買い付ける契約です。
こう言われることがあります。
「今は株が安いので買い時です」
「今買っておけば儲かりますよ」
聞くと動きたくなる言葉です。ただ、ここには前提の問題があります。
その人は、なぜ未来を知っているのでしょうか。
先に結論
この記事の結論
法律で
将来の値動きを断定して勧誘することは禁止されています(金融商品取引法38条2号)
言われて契約したら
取り消せます(消費者契約法4条1項2号)。気づいてから1年・契約から5年以内
そもそも
「安い」は後から分かることです。いま安いかどうかは、将来の価格が決まってはじめて言えます
国の制度も
つみたて投資枠の法律上の定義は「定期的に継続して」買い付ける契約。タイミング判断を前提にしていません
🔴 断定して勧誘すること自体が禁止です
条文を読みます。
(禁止行為)第三十八条 金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、次に掲げる行為をしてはならない。 二 顧客に対し、不確実な事項について断定的判断を提供し、又は確実であると誤解させるおそれのあることを告げて金融商品取引契約の締結の勧誘をする行為 (金融商品取引法38条)
「不確実な事項について断定的判断を提供し」。 これが禁止行為として名指しされています。
図解① 条文にどう当てはまるか
「今が買い時です」
将来上がるという不確実な事項について、断定的な判断を示しています
「必ず儲かります」
「確実であると誤解させるおそれのあることを告げて」にそのまま当てはまります
だから
まともな業者なら、この言い方はしません。言えないことを知っているからです
実際は
「今が買い時」は、業者が言ってはいけない言葉です。 それでも言うということは、規制を知らないか、規制の外にいるかのどちらかです。
🔴 言われて契約したら、取り消せます
もう一つ、消費者側から使える条文があります。
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し……次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって……意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。 二 ……将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認 (消費者契約法4条1項)
期間も定められています。
……取消権は、追認をすることができる時から一年間(……)行わないときは、時効によって消滅する。当該消費者契約の締結の時から五年(……)を経過したときも、同様とする (同7条1項)
CHECK
「必ず値上がりします」と言われて契約したなら、取り消せる可能性があります。 期限は気づいてから1年、契約から5年。まずは消費生活センター(188)に相談してください。
この条文は投資に限りません。 消費者契約全般が対象なので、「この土地は必ず値上がりします」「この地域の家賃は下がりません」といった説明にも当てはまります。
🔴「安い」は、後にならないと分かりません
法律の話を離れて、単純な理屈の問題です。
図解② 「安い」がいつ決まるか
「いま安い」とは
「これから上がる」と言っているのと同じです
でも
上がったかどうかは将来の価格が決まってはじめて分かります
つまり
「いま安い」は、いまの時点では誰にも確認できません。後から振り返って言えるだけです
下がった直後に「安くなった」と言うことはできます。ただ、そこからさらに下がるかもしれません。「下がった」と「安い」は違う話です。
そして、もっと素朴な問いがあります。
実際は
本当に確実に儲かる方法を知っているなら、なぜ他人に教えるのでしょうか。 自分で買えばいいはずです。人を集める必要があるのは、他人のお金が必要な場合です。
金融庁も、この形の勧誘を注意喚起の対象にしています。
🔴 国の制度も、タイミングを前提にしていません
これは制度の作りから確認できます。つみたて投資枠で買えるのは、「累積投資契約」による買付けだけです。その法律上の定義です。
一定額の……上場株式等につき、定期的に継続して、当該金融商品取引業者等に買付けの委託をし……ることを約する契約で、あらかじめその買付けの委託又は取得をする上場株式等の銘柄が定められているもの (租税特別措置法37条の14)
図解③ 制度が求めていること
一定額
金額を変えない=「安いと思ったら多く買う」をしない
定期的に継続して
時期を選ばない=「いま買うべきか」を判断しない
銘柄はあらかじめ
その都度選ばない=「これが上がりそう」で乗り換えない
つまり
国が税制優遇の条件にしているのは、タイミングを判断しない買い方です
補足
「いつ買うか」を当てにいかない設計が、制度の側に組み込まれています。 「今が買い時です」という勧誘は、この考え方とは逆を向いています。
言われたときに聞くこと
図解④ 3つ聞けば十分です
1
「その根拠は何ですか?」過去の値動きが根拠なら、それは将来の保証になりません
2
「外れたら、どうなりますか?」断定した人が責任を負わないなら、断定する資格もありません
3
「なぜ私に教えるんですか?」確実に儲かるなら、自分で買えば済む話です
答えが返ってこないなら、それが答えです。
公平に書いておきます
「見通しを語ることが全部おかしい」という話ではありません。
- 市場の分析や見通しを述べること自体は、禁じられていません。問題は断定することです
- 「〜と考えられます」「〜の可能性があります」は見通しです。「必ず」「確実に」は別物です
- 相場が下がった局面で買うこと自体を否定しているのでもありません。 否定しているのは「いま安いと断定できる」という前提のほうです
そして正直に書くと、未来が読めないのは、この記事も同じです。 だからこそ、当たるかどうかに依存しない方法を選ぶ、という順番になります。
ここに注意
この記事は、何をいつ買うべきかを提案するものではありません。 禁止されている勧誘の型と、言われたときに使える条文を示しています。
まとめ
「今は株が安いので買い時です」
- 将来の値動きを断定して勧誘することは禁止されています(金融商品取引法38条2号)
- 「確実であると誤解させるおそれのあることを告げて」が、条文にそのまま書かれています
- 言われて誤認して契約したなら、取り消せる可能性があります(消費者契約法4条1項2号)
- 期限は気づいてから1年・契約から5年(同7条1項)
- 「いま安い」は後にならないと分かりません。 断定できる人はいません
- つみたて投資枠の法律上の定義は「一定額を定期的に継続して」。国もタイミング判断を前提にしていません
聞くのは、これだけで足ります。
「それが確実なら、なぜ私に教えるんですか?」
未来が分かる人はいません。分かると言う人がいたら、そこが判断の材料になります。
「元本保証」と言われた場合は「元本保証で増えます」は本当?、当てにいかない買い方の考え方は複利とインデックス投資のきほん、成績を事前に見分ける難しさは「プロが運用するアクティブファンドなら儲かる」は本当?にまとめています。
📋 契約前にここを確認
- 「必ず」「絶対」「今なら」と言われませんでしたか?
- その根拠は何ですか?(過去の値動きは将来の保証になりません)
- 言った人は、その予想が外れたら責任を取りますか?
- なぜ他人に教えるのですか?
- (契約済みなら)気づいてから1年以内ですか?