「扶養を外れると損しますよ」は本当? 壁は2年で3回動いています
営業トーク
「103万円を超えると損しますよ。扶養の範囲で働いたほうがいいです」
結論
税金の壁は「壁」ではなく「坂」です。越えても手取りは減りません。控除が少しずつ減るだけで、働いた分は必ず増えます。手取りが逆転するのは社会保険の壁だけです。そしてその106万円の壁は、2026年10月1日に撤廃されました。残るのは130万円の壁と、「週20時間」という時間の線と、会社の家族手当です。まず自分がどれに当たるのかを確かめてください。
年末が近づくと、決まって言われます。
「103万円を超えると損しますよ」
「扶養の範囲で働いたほうがいいです」
言っているのはパート先の上司だったり、同僚だったり、保険の窓口だったりします。悪気はありません。ただ、その103万円という数字は、もう存在しません。
先に結論
この記事の結論
壁は2種類あります
税金の壁と社会保険の壁。まったく別のものです
税金の壁は
壁ではなく「坂」です。越えても手取りは減りません
手取りが減るのは
社会保険の壁だけ。ここだけが本物の壁です
その106万円の壁は
2026年10月1日に撤廃されました。政令で施行日が決まっていました
これから残るのは
「週20時間」という時間の線と、会社の家族手当です
🔴 まず、その103万円はもうありません
税金の線は、2年連続で動きました。
| 何が起きる線 | 〜2024年分 | 2025年分 | 2026年分(今年) |
|---|---|---|---|
| 自分に住民税がかかり始める | 約100万円 | 約110万円 | 約119万円 |
| 自分に所得税がかかり始める | 103万円 | 160万円 | 178万円 |
| 家族の扶養控除・配偶者控除が満額でなくなる | 103万円 | 123万円 | 136万円 |
| 配偶者特別控除が満額(38万円)でなくなる | 150万円 | 160万円 | 169万円 |
| 配偶者特別控除がゼロになる | 201.6万円 | 201.6万円 | 207万円 |
| 19〜22歳の子の控除がゼロになる | 103万円 | 188万円 | 197万円 |
給与だけで働いている人の、収入ベースの金額です。
「103万円」は2024年分までの数字です。2年で3回変わったので、去年の知識でも足りません。
なぜ178万円になったのか
所得税がかからない線は、2つの控除の足し算でできています。
| 基礎控除 | 給与所得控除の最低保障 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 〜2024年分 | 48万円 | 55万円 | 103万円 |
| 2025年分 | 95万円 | 65万円 | 160万円 |
| 2026・2027年分 | 104万円 | 74万円 | 178万円 |
| 2028年分以後(予定) | 99万円 | 69万円 | 168万円 |
(国税庁「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」・合計所得金額132万円以下の場合)
2026年と2027年の上乗せは、2年間の時限措置です。2028年分からはいったん下がります。
そのかわり、2028年分以後は2年ごとに物価の変化率に応じて見直す仕組みが新しくつくられました。今後は「壁が固定されている」という前提そのものがなくなります。
補足
2026年・2027年分だけ使える計算法があります。 給与収入が74万1,000円〜219万1,000円の間なら、給与所得=収入 − 74万円(一律)。 この記事に出てくる金額は、全部これで出せます。136万円なら 136 − 74 = 62万円です。
🔴 所得税ゼロでも、住民税はかかります
ここが一番誤解されるところです。
住民税の基礎控除は43万円のまま、据え置かれました。 引き上げられたのは所得税のほうだけです。
図解① 119万円〜178万円のゾーン
〜約119万円
所得税も住民税もかかりません
約119万円〜178万円
所得税はゼロ。でも住民税はかかります
178万円〜
所得税もかかり始めます
住民税の非課税ラインは、お住まいの自治体によって119万円より少し下がることがあります(生活保護の級地区分によって、基本額が45万円・41.5万円・38万円に分かれるため)。
「178万円まで税金ゼロ」と説明されることがありますが、正確には「所得税がゼロ」です。
A. 税金の壁は、壁ではなく坂です
ここからが本題です。
「103万円を超えると損をする」という話は、そもそも仕組みを取り違えています。
家族の扶養控除・配偶者控除は、線を越えた瞬間にゼロになるわけではありません。段階的に減ります。
配偶者の場合
| 配偶者の給与収入 | 夫(妻)が受けられる控除 |
|---|---|
| 136万円以下 | 配偶者控除 38万円 |
| 136万円超 169万円以下 | 配偶者特別控除 38万円(変わりません) |
| 169万円超 174万円以下 | 36万円 |
| 174万円超 179万円以下 | 31万円 |
| 179万円超 184万円以下 | 26万円 |
| 184万円超 189万円以下 | 21万円 |
| 189万円超 194万円以下 | 16万円 |
| 194万円超 199万円以下 | 11万円 |
| 199万円超 204万円以下 | 6万円 |
| 204万円超 207万円以下 | 3万円 |
| 207万円超 | 0円 |
(2026年・2027年分。控除を受ける本人の合計所得金額が900万円以下の場合)
136万円を1円超えても、控除は38万円のままです。減り始めるのは169万円から。しかも5万円刻みで少しずつです。
19〜22歳の子の場合
大学生のアルバイトです。ここは2025年に特定親族特別控除という制度が新しくできました。
| 子の給与収入 | 親が受けられる控除 |
|---|---|
| 136万円以下 | 特定扶養控除 63万円 |
| 136万円超 159万円以下 | 特定親族特別控除 63万円(変わりません) |
| 159万円超 164万円以下 | 61万円 |
| 164万円超 169万円以下 | 51万円 |
| 169万円超 174万円以下 | 41万円 |
| 174万円超 179万円以下 | 31万円 |
| 179万円超 184万円以下 | 21万円 |
| 184万円超 189万円以下 | 11万円 |
| 189万円超 194万円以下 | 6万円 |
| 194万円超 197万円以下 | 3万円 |
| 197万円超 | 0円 |
以前は、子の収入が103万円を1円でも超えると、親の63万円の控除がまるごと消えました。 そこが本当に「壁」だったのです。
いまは坂になっています。
図解② 壁が坂に変わりました
2024年分まで
103万円を1円超えたら、親の控除が63万円まるごと消えた
2025年分から
段階的に減るしくみに変わりました(特定親族特別控除)
だから
税金のために働き控えする理由は、ほぼなくなりました
実際は
税金の壁を越えても、世帯の手取りが減ることはありません。 控除が減れば税金は増えますが、増える税金より、増えた収入のほうが必ず大きいからです。 控除は「税金がゼロになる金額」ではなく「税金の計算から差し引く金額」です。
学生の場合はもう1つ
アルバイトをしている学生には勤労学生控除があります。この線も動きました。
- 2024年分まで:給与収入 130万円以下
- 2025年分:150万円以下
- 2026年分:163万円以下
B. 社会保険の壁だけが、本物の壁です
ここだけは違います。保険料は段階的ではありません。
線を越えた瞬間に、年間十数万円の保険料が、いきなり満額で発生します。 だから手取りが逆転します。
| 年収 | 社会保険料(本人負担・年) | 手取りのめやす |
|---|---|---|
| 129万円(扶養のまま) | 0円 | 約129万円 |
| 130万円(勤務先の社保に加入) | 約18.6万円 | 約111万円 |
| 150万円(同上) | 約21.3万円 | 約129万円 |
40歳未満・賞与なし・協会けんぽの令和8年度平均保険料率9.9%(労使折半)と厚生年金18.3%(同)で計算した概算です。住民税は含めていません。都道府県や加入する健康保険によって変わります。
130万円で扶養を外れると、手取りは約18万円減ります。 そして元の水準に戻るのは、年収150万円あたりです。
図解③ ここだけが「壁」です
税金
控除が5万円刻みで減る。手取りは減りません
社会保険
越えた瞬間に満額の保険料。手取りが逆転します
だから
「損する」という話が成り立つのは、ここだけです
勤務先の社会保険に入れない場合は、もっと重い
年収130万円を超えても、勤務先の社会保険に入れないことがあります(週20時間未満など)。その場合は国民年金と国民健康保険を、全額自己負担で払います。
- 国民年金:月17,920円(令和8年度)= 年215,040円
- 国民健康保険:自治体によって大きく違いますが、年収130万円なら年10万円前後になることが多い
会社が半分持ってくれる形とは、負担がまるで違います。 「130万円の壁」が特に語られるのは、この形になる人がいるからです。
🔴 その106万円の壁は、2026年10月1日に消えました
そして、いま一番大きな変更がこれです。
短時間で働く人が勤務先の健康保険・厚生年金に加入する条件から、賃金要件(月額8.8万円以上=年収106万円相当)が撤廃されました。
厚生労働省は、政令案の段階でこう説明していました。
令和8年4月1日以降は全都道府県で最低賃金が 1,016 円以上となり、労働時間要件に該当しなければ自動的に賃金要件にも該当しなくなったこと等を踏まえ、令和8年 10 月1日を、賃金要件の撤廃に係る規定の施行日とするための施行期日を定める政令を別途制定することとしている (厚生労働省「厚生年金保険法施行令等の一部を改正する政令案について(概要)」)
この政令(令和8年政令第275号)は2026年9月11日に官報で公布され、予告どおり本日2026年10月1日に施行されました。 実際、厚生年金保険法12条5号の適用除外規定を確認すると、短時間労働者の除外要件は「週の所定労働時間20時間未満」「学生」の2つだけになっており、賃金要件はすでに条文から消えています(e-Gov法令検索「厚生年金保険法」第12条)。
| 加入の条件 | 2026年9月まで | 2026年10月1日から |
|---|---|---|
| 労働時間 | 週20時間以上 | 週20時間以上 |
| 賃金 | 月8.8万円以上 | なくなりました |
| 学生 | 学生でないこと | 学生でないこと |
| 会社の規模 | 被保険者51人以上 | 51人以上(10年かけて撤廃) |
これは「壁がなくなる」という話ではありません。「壁の場所が変わる」という話です。
図解④ 壁は金額から時間へ移ります
これまで
年収を106万円未満に抑えれば、加入しなくてすんだ
2026年10月から
週20時間以上働けば、年収がいくらでも加入します
つまり
調整するなら金額ではなく時間。時給が上がっても意味がなくなります
ここに注意
時給が上がるほど不利になる、という逆転がなくなります。 これまでは時給が上がると106万円に早く届いてしまうため、時間を減らすしかありませんでした。 2026年10月からは、時給が上がっても加入の判定に影響しません。
(最低賃金法7条の減額特例を受けていて報酬が月8.8万円未満の人は、当分の間、加入対象から外れます)
会社の規模要件は、10年かけて消えます
「うちは小さい会社だから関係ない」も、いずれ通用しなくなります。
| 時期 | 対象になる会社(被保険者数) |
|---|---|
| 現在 | 51人以上 |
| 2027年10月 | 36人以上 |
| 2029年10月 | 21人以上 |
| 2032年10月 | 11人以上 |
| 2035年10月 | すべての会社 |
(日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」・いずれも予定)
130万円の壁は、残ります
週20時間未満で働く人、会社の規模要件を満たさない会社で働く人は、これまで通り130万円です。ここは変わりません。
ただし、緩和が2つあります。
① 一時的な収入増なら、扶養を続けられる
人手不足の穴埋めなど、一時的に130万円を超えてしまった場合。事業主の証明を添えれば、原則として連続2回まで扶養に入り続けられます。
② 🔴 19歳以上23歳未満は「150万円未満」に上がりました
2025年10月1日から、19歳以上23歳未満の人の被扶養者の年収要件が、130万円未満から150万円未満に引き上げられています。
- 配偶者は対象外です(子や兄弟姉妹などが対象)
- 年齢は、扶養認定日が属する年の12月31日時点で判定します
大学生の子をアルバイトさせている家庭では、ここが実際に効きます。
図解⑤ 2026年秋の時点で、自分はどれか
週20時間以上・51人以上の会社
10月から年収に関係なく加入します
週20時間以上・小さい会社
当面は130万円。会社の規模しだいで順に加入対象へ
週20時間未満
130万円。19〜22歳なら150万円
確かめること
自分の週の所定労働時間と、勤務先の被保険者数
とはいえ、外れることには見返りがあります
ここは正直に書きます。保険料を払う側になることには、払うだけの中身があります。
① 将来の年金が増えます
標準報酬月額11万円で1年間、厚生年金に入ると、老齢厚生年金が年およそ7,200円、終身で増えます。
本人が払う厚生年金保険料は年約12万円。約17年で払った分に追いつく計算です。65歳から受け取るなら82歳あたり。
長生きすればプラス、そうでなければマイナスです。 ここは断言できません。ただし、会社が同額を負担していること、障害厚生年金・遺族厚生年金もセットで付くことは、計算に入れておくべきです。
② 傷病手当金・出産手当金が使えます
これは国民健康保険にはありません。 病気やけがで働けなくなったとき、給与のおよそ3分の2が最長1年6か月支給されます。
医療保険を検討している人は、「医療保険は入っておいた方が安心」は本当?も合わせて読んでください。公的な保障がどこまであるかを知らないまま、民間の保険で埋めようとしていることがあります。
③ 保険料の半分は会社が払います
国民年金・国民健康保険は全額自己負担です。勤務先の社会保険は労使折半で、会社が同額を負担しています。
実際は
「扶養を外れる」は、損得だけの話ではありません。 保険料を払う代わりに、年金・傷病手当金・出産手当金が付いてきます。 「損する」と言う人は、払う側だけを見て、もらう側を見ていないことがあります。
見落とされる、3つ目の壁
税制も社会保険も国が決めます。でも、会社の家族手当は会社が決めます。
「配偶者手当は年収103万円まで」「130万円を超えたら支給停止」という基準の会社は、いまも多くあります。税制が変わっても、就業規則は自動では変わりません。
月2万円の配偶者手当なら、年24万円。社会保険料より大きいこともあります。
確かめる先は、国ではなく、配偶者の勤務先の就業規則です。
聞かれたときに確認する4つ
図解⑥ 「損しますよ」と言われたら
①
その数字はいつのものですか(103万円なら2024年分までの数字です)
②
それは税金の話ですか、社会保険の話ですか
③
私の週の所定労働時間は20時間以上ですか
④
会社に家族手当はありますか。基準はいくらですか
①で答えが返ってこないなら、その人は2年分の改正を知らないまま話しています。 悪意ではなく、単に情報が古いだけです。
②が区別できていない相談は、そもそも計算が合いません。
まとめ
「扶養を外れると損しますよ」
- 103万円という線は、2024年分までの数字です。2025年分は160万円、2026年分は178万円(所得税がかからない線)
- 住民税は別です。所得税ゼロでも、おおむね119万円を超えると住民税はかかります
- 税金の壁は「坂」です。家族の控除は段階的に減るだけで、世帯の手取りは減りません
- 手取りが逆転するのは社会保険の壁だけ。年収130万円で加入すると、本人負担は年約18.6万円
- 🔴 その106万円の壁は、2026年10月1日に撤廃されました。 条文からも賃金要件が消えたことを確認済みです
- 撤廃後の判定は「週20時間以上」。年収を抑えても、時間が20時間以上なら加入します
- 会社の規模要件も、2035年10月にすべての会社へ広がります
- 130万円の壁は残ります。 ただし19歳以上23歳未満は、2025年10月から150万円未満に
- 保険料を払う側になると、厚生年金・傷病手当金・出産手当金が付きます
- 見落とされがちな3つ目の壁が、会社の家族手当です
聞かれたときに確かめるのは、この一問です。
「その103万円は、いつの数字ですか」
そして、自分に確かめる一問です。
「私は週20時間以上働いていますか」
2026年10月からは、この2つ目のほうが答えになります。
公的な保障がどこまであるかは「公的保障だけでは足りません」は本当?、働けなくなったときの話は「医療保険は入っておいた方が安心」は本当?、老後のお金の置き場所はiDeCoとNISA、どちらを先に使う?にまとめています。
📋 契約前にここを確認
- その「103万円」はいつの数字ですか?(2026年分は178万円です)
- 手取りが減る話ですか、控除が減る話ですか?(別のことです)
- あなたの勤務先の社会保険は、何人の会社ですか?
- 週の所定労働時間は20時間以上ですか、未満ですか?
- 勤務先に家族手当はありますか。その基準はいくらですか?
- 2026年10月以降も同じ条件ですか?(賃金要件が撤廃されました)
参照した情報源
- 国税庁「令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし」(基礎控除104万円・給与所得控除の最低保障74万円・扶養親族等の所得要件62万円)
- 国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」
- 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
- 総務省「令和8年度地方税制改正(案)について」(個人住民税の非課税ライン 110万円→119万円)
- 厚生労働省「厚生年金保険法施行令等の一部を改正する政令案について(概要)」(賃金要件の撤廃を令和8年10月1日に施行する方針を説明した政令案)
- e-Gov法令検索「厚生年金保険法」第12条(適用除外・2026年10月1日施行の現行条文。賃金要件が条文から削除されたことを確認)
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」(企業規模要件の段階的な拡大)
- 厚生労働省「年収の壁」への対応(事業主の証明による被扶養者認定・学生年代の特例)
- 日本年金機構「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります」(2025年10月1日から150万円未満)
- 全国健康保険協会「令和8年度保険料額表」(協会けんぽの平均保険料率9.9%)
- 日本年金機構「国民年金保険料」(令和8年度は月額17,920円)