「公的保障だけでは足りません」は本当? 足りないと言うには3つの数字が要ります
営業トーク
「公的保障だけでは足りませんよ。足りない分は自分で備えないと」
結論
「足りない」は引き算の結論なので、①公的保障がいくらあるか、②必要額がいくらか、③その差はいくらか、の3つの数字が必要です。営業トークでは①が空欄のままのことがあり、その場合は不足額が必要額と同じ大きさになります。医療費には高額療養費制度の上限があり、長引くほど軽減が強くなります。会社員には付加給付があることもあります。さらに働けないときの傷病手当金、亡くなったときの遺族年金、障害が残ったときの障害年金があります。ただし自営業・フリーランスは会社員より薄いので、そこは事実です。まず①を数えてから、②の出典を聞いてください。
保険の話は、だいたいここから始まります。
「公的保障だけでは足りませんよ」
「足りない分は、自分で備えないと」
反論しにくい言葉です。「足りている」と言い切れる人は、あまりいないからです。
でも、少し立ち止まります。「足りない」は、何かと何かを比べた結論のはずです。
先に結論
この記事の結論
「足りない」と言うには
3つの数字が要ります。①公的保障はいくらか ②必要額はいくらか ③その差はいくらか
よくあるのは
①が空欄のまま。そうすると不足額が必要額と同じ大きさになります
①は医療費だけではありません
働けないとき・亡くなったとき・障害が残ったときにも、それぞれ制度があります
ただし
自営業・フリーランスは会社員より薄いのは事実です。人によって答えが変わります
🔴 引き算に、引く数がありません
「足りない」は引き算の結論です。ところが引く数のほうが出てきません。
図解① 「足りない」の中身
必要額
「◯,000万円必要です」という数字。これは出てきます
公的保障
ここが空欄のままのことがあります
不足額
引く数が空欄なら、不足額は必要額と同じになります
実際は
引く数がゼロなら、答えは必ず「足りない」になります。 計算が間違っているのではなく、計算していないのです。
だから、①から数えます。
公的保障は、医療費だけではありません
「公的保障」と聞くと健康保険を思い浮かべますが、入り口は4つあります。
図解② すでに入っている4つ
医療費がかかったとき
高額療養費制度。月の自己負担に上限があります
働けなくなったとき
傷病手当金。会社員なら給料の約3分の2が出ます
亡くなったとき
遺族年金。会社員は遺族基礎年金に遺族厚生年金が上乗せされます
障害が残ったとき
障害年金。会社員は3級まで対象になります
この4つを順に見ます。医療費については、医療保険が要るかどうかの判断を別の記事にまとめています。
営業の場で話題になるのは、たいてい医療費だけです。 下の3つは出てこないことがあります。
医療費がかかったとき ── 高額療養費と付加給付
まず、いちばん知られている制度から。健康保険には、月の自己負担に上限があります。
医療費100万円の治療を受けた場合、自己負担は約9.3万円まで抑えられます (厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」・70歳未満/年収約370万〜約510万円の場合)
窓口では3割払いますが、上限を超えた分は戻ってきます。 医療費が青天井にはならない、ということです。
そして、長引いた場合はさらに軽減されます。
図解③ 長引くほど、公的側が効いてきます
1〜3か月目
それぞれの月に自己負担の上限がかかります
4か月目以降
多数回該当。直近12か月で該当した月が3か月以上あると、上限がさらに下がります
令和8年8月から
年間上限が新設。年間の上限に達したあとは、保険者から還付を受けられます
CHECK
「長引いたら公的保障では足りない」と言われることがあります。 ところが制度は逆向きです。長引くほど、軽減が強くなります。
会社員には、さらに上乗せがあることもあります。
法定給付の額や期間などを拡大して支給する健康保険組合独自の給付です (健康保険組合連合会「付加給付」)
付加給付といいます。実施するかどうかは組合ごとの任意で、内容もさまざま。やっていない組合もあります。だからこそ、自分の組合を調べる価値があります。 保険証に組合名が書いてあります。
補足
🔴 この制度は見直しが続いています。 令和9年8月からは所得区分がさらに細かくなる予定です(同じ厚生労働省のページに記載があります)。 契約を考えるときは、その時点の上限額を必ず確認してください。
働けなくなったとき ── 傷病手当金
医療費とは別に、働けない間の生活費が出ます。会社員・公務員が対象です。
図解④ 傷病手当金のしくみ
いくら
支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均÷30×3分の2(1日あたり)
いつまで
支給を開始した日から通算して1年6か月
条件
連続する3日間を含み4日以上仕事に就けないこと。給与が出ている間は支給されません
出典は全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき」。給与が傷病手当金より少ない場合は、その差額が支給されます。
協会けんぽの計算例では、標準報酬月額の平均が17万円の人で1日あたり3,780円。月に直すと11万円ほどです。
これは医療費とは別の話です。医療保険の記事にも書いたとおり、困るのが治療費なのか収入なのかで、考えるものが変わります。
補足
「収入が止まったらどうするんですか」と言われたら、この制度の話です。 ゼロにはなりません。まず自分の額を出してから、足りるかどうかを考える順番です。
亡くなったとき ── 遺族年金
死亡保障でも同じことが起きます。「残された家族の生活費は」と言われますが、遺族年金が先にあります。
遺族基礎年金の年金額(令和8年4月分から) 子のある配偶者が受け取るとき(昭和31年4月2日以後生まれの方)847,300円 + 子の加算額 1人目および2人目の子の加算額 各243,800円/3人目以降の子の加算額 各81,300円 (日本年金機構)
子ども2人なら 847,300円+243,800円×2=1,334,900円。月に約11万円です。会社員なら、ここに遺族厚生年金が上乗せされます。
ここに注意
🔴 ただし、遺族基礎年金には落とし穴があります。 受け取れるのは「子のある配偶者」と「子」だけです(子とは18歳になった年度の3月31日まで、または20歳未満で障害等級1級・2級の状態にある方)。 子どもがいない配偶者には、遺族基礎年金は出ません。
この違いは大きいので、必ず自分の場合で確認してください。 「公的保障がある」も「足りない」も、家族構成で結論が変わります。
障害が残ったとき ── 障害年金
見落とされやすいのがここです。病気やケガで障害が残ったときにも、年金が出ます。
障害基礎年金の年金額(令和8年4月分から) 1級 1,059,125円 + 子の加算額/2級 847,300円 + 子の加算額(昭和31年4月2日以後生まれの方) (日本年金機構)
会社員は、これに障害厚生年金が上乗せされます。しかも対象になる範囲が広いのがポイントです。
図解⑤ 障害年金の対象範囲
障害基礎年金(全員)
1級と2級のみ。3級は対象外です
障害厚生年金(会社員)
1級から3級まで。3級には最低保障額もあります
3級とは
「労働が著しい制限を受ける、または、労働に著しい制限を加えることを必要とするような状態」
🔴 自営業とフリーランスは、ここが違います
公平に書きます。「足りません」が当たっている人もいます。
図解⑥ 会社員と自営業の差
医療費の上限
どちらにもあります。ここは同じです
傷病手当金
国民健康保険にはありません
遺族・障害の上乗せ
遺族厚生年金・障害厚生年金は会社員だけ。障害は3級が対象外になります
CHECK
同じ営業トークでも、会社員と自営業では話の重みが違います。 「公的保障だけでは足りません」と言われたら、自分がどちらなのかを踏まえた説明になっているかを見てください。 一律に同じ話をしている場合、その人はあなたの状況を計算していません。
その「必要額」は、どこから出た数字ですか
①を数えたら、次は②です。
図解⑦ 必要額の出どころ
よくある出し方
平均値・アンケート・「一般的には」。その世帯の事情は入っていません
確認できること
「その数字の出典はどこですか」と聞く。出せない数字は根拠になりません
本来は
自分の支出・貯蓄・働き方・家族構成から出す数字です
平均で出した必要額から、自分の公的保障を引くのは、そもそも計算になっていません。 片方は他人の数字、もう片方は自分の数字だからです。
まとめ
「公的保障だけでは足りません」
- 「足りない」は引き算の結論です。①公的保障 ②必要額 ③その差、の3つが要ります
- ①が空欄なら、不足額は必要額と同じ大きさになります
- 医療費には高額療養費制度の上限があります(年収約370万〜510万円なら、医療費100万円で自己負担約9.3万円)
- 長引くほど軽減されます(多数回該当・令和8年8月からの年間上限)。営業トークと向きが逆です
- 会社員は付加給付で、さらに下がることがあります
- 公的保障は医療費だけではありません。働けないとき・亡くなったとき・障害が残ったときにも制度があります
- 会社員は傷病手当金(給料の約3分の2・通算1年6か月)
- 遺族基礎年金は子2人なら年約133万円。ただし子どもがいない配偶者には出ません
- 障害基礎年金は1級・2級のみ。会社員は障害厚生年金で3級まで対象です
- 自営業・フリーランスは薄いのが事実です。ここは営業トークが当たっています
聞くのは、この2つです。
「公的保障はいくらですか」 「その必要額は、どこから出た数字ですか」
両方の数字が出てから、差額の話を始めれば十分です。
医療費そのものの話は「医療保険は入っておいた方が安心」は本当?、「安心」という言葉の使われ方は「保険はお守りみたいなものですから」は本当?、掛け捨ての考え方は「掛け捨てはお金を捨てている」は本当?にまとめています。
📋 契約前にここを確認
- 公的保障がいくらあるか、金額を示してもらいましたか?
- その「必要額」は、どこから出た数字ですか?
- 自分の所得区分だと、医療費の自己負担は月いくらまでですか?
- 勤務先の健康保険組合に付加給付はありますか?
- 働けなくなったとき、傷病手当金はいくら出ますか?(自営業にはありません)
- 会社員ですか、自営業ですか?(公的保障の厚みが変わります)
参照した情報源
- 全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」(支給要件・計算方法・通算1年6か月)
- 日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」(令和8年4月分からの年金額・子の加算額・受給対象者)
- 日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」(1級・2級のみ/令和8年4月分からの年金額)
- 日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」(1級から3級・3級の最低保障額)
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(自己負担の上限/多数回該当/令和8年8月からの年間上限/令和9年8月の所得区分細分化。2026年7月31日更新・2026年9月5日確認)
- 健康保険組合連合会「付加給付」(法定給付を拡大して支給する健保組合独自の給付)