「医療保険は入っておいた方が安心」は本当?まず最大でいくらかかるか調べよう
営業トーク
「入院したら1日1万円はかかりますよ。医療保険は入っておいた方が安心です」
結論
医療費には高額療養費制度で上限があります。まず「自分の場合、最大でいくらかかるのか」を調べてください。その金額が貯蓄で払えるなら、医療保険は要りません。会社員なら勤務先の健保組合に付加給付があることもあります。
「入院したら1日1万円はかかりますよ」
「医療保険は、入っておいた方が安心です」
そう言われた。
……本当に?
まず確認したいのは、「じゃあ最大でいくらかかるの?」です。ここが分からないまま「安心のために」と契約するのは、順番が逆です。
先に結論
この記事の結論
1. 上限がある
医療費の自己負担には高額療養費制度で月ごとの上限があります。青天井ではありません
2. 入院は短い
病院を退院した人の68.4%が14日以内。長期入院は多数派ではありません
3. だから
医療費は「高確率・小損失」。保険ではなく貯蓄で備える領域です
やること
自分の上限額を調べて、それが貯蓄で払えるか確かめる。払えるなら、医療保険は要りません
まず「最大でいくらか」を調べる
保険を考える前に、守りたい損失の大きさを知る必要があります。
日本では、医療費の自己負担に上限があります。
医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が上限額を超えた場合、その超えた額を支給する (厚生労働省「高額療養費制度」)
上限額は年齢と所得で決まります。厚生労働省が挙げている例では、70歳未満・年収約370万〜510万円の方が医療費100万円の治療を受けた場合、自己負担は約9.3万円まで抑えられます(2026年8月から適用の制度)。
実際は
医療費は青天井ではありません。 高額療養費制度がある以上、「いくらかかるか分からない」という前提そのものが違います。
長引いた場合も、さらに上限が下がります
「短期入院ならいいけど、長引いたら?」という話にも、制度側の答えがあります。
直近12か月の間に高額療養費に該当した月が3か月以上ある場合は、4か月目以降は自己負担限度額が更に軽減される「多数回該当」という仕組みがあります (厚生労働省)
加えて、2026年8月からは月単位だけでなく年単位の上限も設けられました。
令和8年7月までの制度では、月単位の上限額となっていますが、令和8年8月からは新たに年単位の上限額を設ける「年間上限」が設けられ、長期療養者などの負担が更に軽減されるケースもあります (同)
実際は
治療が長引くほど、公的制度側の軽減は強くなる設計です。 「長期化したときこそ民間保険が要る」という説明とは、向きが逆になります。
ここに注意
制度は変更されます。 高額療養費制度は2026年8月に月額上限の見直しと年間上限の新設が行われ、さらに2027年(令和9年)8月からは所得区分の細分化が予定されています。 上の金額はあくまで一例です。自分の年齢・所得区分での上限額を、必ず厚生労働省の最新情報で確認してください。
会社員なら、さらに上乗せがあることも
意外と知られていないのが付加給付です。
法定給付の額や期間などを拡大して支給する健康保険組合独自の給付です。 (健康保険組合連合会)
勤務先が健康保険組合に加入している場合、高額療養費の共通の上限より、さらに低い自己負担で済むことがあります。
ただし、
付加給付の実施は健保組合の任意であるため、組合ごとにその内容はさまざまで、実施していない組合もあります (同)
CHECK
自分の勤務先はどうか。 健康保険証に書かれている保険者名で調べるか、総務・人事に聞けば分かります。 付加給付がある会社なら、月の自己負担が2万円台で頭打ち、というケースもあります。
この確認をしないまま医療保険を検討するのは、もったいないと思います。
入院は、思ったより短い
もう一つ、前提を確認します。厚生労働省の患者調査(令和5年)です。
- 退院患者の平均在院日数:病院29.3日、一般診療所14.2日
- 在院期間別の割合:病院は「0〜14日」が68.4%、「15〜30日」が15.5%
- 一般診療所では「0〜14日」が84.3%
病院を退院した人の約7割が、2週間以内に退院しています。
「入院したら1日1万円」という説明を、この数字と並べてみてください。14日なら14万円。そしてその医療費の大半は、高額療養費制度の上限までしか自己負担になりません。
4象限に当てはめると、答えが出ます
前に整理した4象限を使います。保険で備えるべきは「低確率・大損失」でした。
医療費はどこに入るでしょうか。
図解① 医療費はどの領域か
確率は
高い。病気やケガは、多くの人が人生のどこかで経験します
損失は
限定されている。高額療養費制度で上限があり、付加給付があればさらに小さい
つまり
「高確率・小損失」=貯蓄で備える領域です
保険が力を発揮するのは「めったに起きないが、起きたら貯金ではどうにもならない」損失です。医療費は上限があるぶん、その条件から外れます。
そして、思い出してください。よく起きることに保険をかけると、保険料も高くなります。 保険会社はその頻度を見込んで保険料を決めるからです。
高い確率で起きることを保険でまかなうのは、手数料を払って自分のお金を預けて返してもらうようなものになります。
総額で見ると、払う額のほうが多くなります
これは商品の善し悪しではなく、保険という仕組みの性質です。
生命保険協会は、保険料の計算をこう説明しています。
生命保険の保険料は、以下の予定死亡率・予定利率・予定事業費率という3つの「予定率」をもとに計算されます。 ……保険料は3つの予定率をもとに計算されますが、実際には予定したとおりの死亡者数、運用利回り、事業費になるとは限りません。 (生命保険協会「生命保険の基礎知識 STEP.7 保険料と配当金の仕組み」)
3つ目の予定事業費率は、その名のとおり事業費(保険会社の経費)の見込みです。つまり保険料は、支払われる給付金のほかに、会社の運営経費も見込んで計算されています。
実際は
加入者全体で見れば、払い込む保険料の総額は、受け取る給付金の総額を上回ります。 そうでなければ、保険会社は事業を続けられません。
これは詐欺でも何でもなく、保険が成り立つための当たり前の条件です。だからこそ、保険は「自分では背負えない損失」にだけ使う道具になります。
上限が決まっている出費に保険を使うと、この構造がそのまま不利に働きます。
「損したくない」という気持ちのほうが、狙われています
医療保険が勧めやすいのは、多くの人が「入院したことがある/する気がする」からです。
がん保険や死亡保険と違って、医療保険は実際に給付金を受け取る人が多い商品です。「入っていてよかった」という体験談も出てきます。
でも、そこで確認すべきはこうです。
CHECK
受け取った金額は、それまでに払った保険料の総額を超えていましたか?
5,000円の医療保険を20年払えば120万円。10日入院して日額5,000円なら5万円。「もらえた」という実感と、収支が合っているかは別の話です。
「損したくない」という気持ちは自然なものです。ただ、その気持ちに応えるために毎月お金を払い続けると、総額では損が大きくなる——ここが逆転しています。
それでも考えるとしたら、医療費ではありません
一つだけ、別の論点があります。働けない間の収入です。
会社員には傷病手当金があります。条件を満たせば、標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2が、支給開始日から通算1年6か月を上限に支給されます。
一方、自営業やフリーランスが加入する国民健康保険には、原則としてこの制度がありません。 働けなくなれば収入がそのまま止まります。
ここに注意
ただし、それは「医療費」の問題ではなく「収入」の問題です。 入院日額いくら、という医療保険で解決する話ではありません。
問題が違えば、答えも違います。 医療保険を検討する前に、自分が困るのは治療費なのか収入なのかを分けてください。
公的保障は医療費以外にもあります。全体の棚卸しは「公的保障だけでは足りません」は本当?にまとめています。
まとめ
「医療保険は入っておいた方が安心」
安心したい気持ちは分かります。ただ、その前にやることがあります。
- 自分の所得区分での自己負担の上限額を調べる
- 勤務先に付加給付があるかを調べる
- その金額が、いまの貯蓄から払えるかを確かめる
払えるなら、それは保険で備えるべき損失ではありません。貯蓄で備える領域です。
そして保険料は総額で見てください。払い込む総額は、受け取る総額を上回るのが保険の仕組みです。上限が決まっている出費に使うと、その分だけ不利になります。
「1日1万円」という数字を出されたら、上限のほうを聞き返してください。
「高額療養費制度を使うと、私の場合は月いくらまでですか?」
同じ考え方でがん保険を見ると「がん保険は絶対必要」は本当?、個室の費用については「個室になったら差額ベッド代がかかりますよ」は本当?にまとめています。
📋 契約前にここを確認
- 自分の所得区分だと、医療費の自己負担は月いくらまでですか?
- 勤務先の健康保険組合に付加給付はありますか?
- その金額は、いまの貯蓄から払えますか?
- 保険料は総額でいくら払うことになりますか?
- 受け取れる可能性のある給付金は、総額でいくらですか?