🧭 営業の基本

「勧誘じゃないよ。会わせたい人がいるだけ」は本当? マルチ商法では、目的を隠した誘いそのものが法律違反です

🗣️営業トーク

「勧誘とかじゃないから安心して。ただ、会わせたい人がいるんだ。すごい人だから、話を聞くだけでも勉強になるよ」

結論

マルチ商法(特定商取引法の連鎖販売取引)では、誘う側は「勧誘に先立って」、会社名、契約の勧誘が目的であること、商品の種類を告げなければなりません(第33条の2)。消費者庁は、この「先立って」を、相手が勧誘を受けるか断るかを判断する最初の機会のことだと説明しています。目的を告げずに電話やSNSのメッセージで呼び出し、事務所・自宅・カラオケボックスなどで勧誘すれば、3年以下の拘禁刑などの対象です(第34条第4項・第70条)。2021〜2025年度に連鎖販売取引で処分された16社のうち、15社の処分理由にこの告知義務の違反が入っていました(当サイト集計)。当サイトが確認したマッチングアプリの規約(3件)は、いずれもビジネスの勧誘を禁止していました。最初の約束を破って近づいてくる話を、信用する理由はありません。

マッチングアプリで知り合った人や、久しぶりに連絡してきた友人に、こう言われます。

「勧誘とかじゃないから安心して。ただ、会わせたい人がいるんだ」

「すごい人だから、話を聞くだけでも勉強になるよ」

行ってみると、紹介された「すごい人」から、仕事やもうけ話、そして入会の話が始まります。

マルチ商法(ネットワークビジネス)なら、この誘い方の時点で法律違反です。 この記事では、法律が誘う側に何を義務づけているのか、マッチングアプリでの勧誘がどう扱われているのかを確かめます。

先に結論

この記事の結論

法律は

マルチ商法の勧誘では、誘う前に会社名・勧誘が目的であること・商品の種類を告げるよう義務づけています

▼

隠して呼び出し

事務所・自宅・カラオケなどで勧誘すれば、3年以下の拘禁刑などの対象です

▼

実際に

2021〜2025年度に処分された16社のうち、15社がこの告知義務に違反していました

▼

マッチングアプリも

確認した3件のアプリの規約は、いずれもビジネスの勧誘を禁止していました

▼

だから

目的を隠して近づいてくる時点で、その話を信用する理由はありません

マルチ商法そのものの仕組み(ねずみ講との違い、全員はもうからない理由、やめ方)は、「ねずみ講じゃないから、合法です」は本当?にまとめています。この記事は、誘われる入口に絞って書きます。

🔴 マルチ商法では、最初に目的を告げる義務があります

法律の条文

特定商取引法は、マルチ商法を「連鎖販売取引」として規制しています。誘う側には、こう義務づけています。

統括者、勧誘者……又は一般連鎖販売業者……は、……連鎖販売取引をしようとするときは、その勧誘に先立つて、その相手方に対し、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の氏名又は名称……、特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘をする目的である旨及び当該勧誘に係る商品又は役務の種類を明らかにしなければならない。 (特定商取引法 第33条の2)

告げなければならないのは、次の3つです。

告げること たとえば
会社の名前(本部の名前も含む) 「○○という会社の会員として話をします」
契約の勧誘が目的であること 「入会してもらうための話です」
商品や役務の種類 「健康食品です」「投資の勉強会です」

「勧誘とかじゃないから」は、この2つ目の正反対です。

「先立って」とは、いつのことか

消費者庁の通達(法律の運用についての公式の解釈)は、こう説明しています。

相手方が勧誘を受けるか拒否するかを判断する最初の重要な機会を確保できる時点と解することとなり…… 例えば、説明会等への来訪を要請する場合であれば、当初から勧誘行為が始められる場合が多いことから、基本的に、直接誘ったり、電話をかけるなど相手方と接触した際に告げることとなる。 (消費者庁「特定商取引に関する法律等の施行について」・令和6年11月19日)

会ってから言えばいい、ではありません。 「会わない?」と誘った時点で告げる、というのが消費者庁の解釈です。

「紹介するだけ」の友人も、義務を負います

誘ってくる友人は、「自分は会社の人じゃない。紹介するだけ」と言うかもしれません。通達は、これにも答えています。

会員Aが他の会員Bを探してきて本部に紹介し、本部が会員Bと契約するというような形態の場合には、本部が当該会員Aに勧誘を行わせているものと解されることから、当該会員Aは法上の「勧誘者」に該当することが一般的であると考えられる。 なお、「勧誘者」の要件に合致するか否かは、客観的に判断すべきものであり、たとえ勧誘者が自分は統括者が勧誘を行わせる者でないと主張したとしても、法第33条の2の適用を免れるものではない。 (同 通達)

📝補足

マルチ商法でなくても、同じ義務があります。 訪問販売にも、勧誘に先立って会社名・勧誘の目的・商品の種類を告げる義務があります(特定商取引法 第3条)。 目的を隠して店や事務所に呼び出す勧誘(いわゆるアポイントメントセールス)は、訪問販売として扱われます。

🔴 隠して呼び出し、閉じた場所で勧誘すれば刑事罰の対象

条文

統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに……政令で定める方法により誘引した者に対し、公衆の出入りする場所以外の場所において、当該契約の締結について勧誘をしてはならない。 (特定商取引法 第34条第4項)

違反すると、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり)です(第70条)。

「政令で定める方法」には、SNSのメッセージも入ります

政令は、呼び出しの方法をこう定めています。

電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ装置を用いて送信する方法若しくは電磁的方法により……営業所その他特定の場所への来訪を要請する方法 (特定商取引法施行令 第5条)

「電磁的方法」について、通達はこう書いています。

いわゆるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のメッセージ機能等を使用する方法を規定したものである。これらの方法については、特定の個人に対して送信するもののほか、グループ内のメンバー等のあらかじめ特定された複数の者に対して一斉送信する場合も対象となる。 (同 通達)

「公衆の出入りする場所以外」とは

例えば、販売業者等の事務所、個人の住居、ホテルの部屋や会議室、公共施設等の会議室、カラオケボックス、貸切り状態の飲食店等は該当するものと考えられる。 ……例えば、誘引した者に対し、公衆の出入りする場所で勧誘を始め、その後公衆の出入りしない場所でも勧誘を行った場合についても、同項に違反する行為となる。 (同 通達)

最初はカフェでも、「続きは事務所で」「上の階に部屋がある」と移動した時点で、この規定の対象になります。

図解① どこから違反になるか

誘う

「会わせたい人がいる」とメッセージ。会社名・勧誘目的・商品を告げていない → 第33条の2の義務に違反

▼

会う

カフェで、紹介された人から入会の話が始まる

▼

移る

「続きは事務所で」。部屋・カラオケ・貸切の店で勧誘 → 第34条第4項に違反。刑事罰の対象

▼

あなたは

目的が分かった時点で帰ってかまいません。移動に付いていく必要はありません

実際の処分理由も、ほとんどがこれです

消費者庁の「執行事例の検索」で、取引類型を連鎖販売取引、処分日を2021年4月1日から2026年3月31日までにして検索しました(2021〜2025年度の5年分・当サイト集計)。

項目 事業者数
国と都道府県から処分を受けた事業者(個人への業務禁止命令を除く) 16
そのうち、処分理由に第33条の2(会社名・勧誘目的・商品の不明示)が入っていた 15
そのうち、処分理由に第34条第4項(目的を告げずに呼び出し、公衆の出入りしない場所で勧誘)が入っていた 11
15/16社の処分理由に、勧誘目的などを告げなかったことが入っていました

処分の対象になった商品は、化粧品、健康食品、情報商材、投資の自動売買ツール、通信サービスなどさまざまです。商品は違っても、入口の手口は同じだということです。

🔴 マッチングアプリでの勧誘は、規約でも禁止されています

アプリの規約

当サイトが3件のマッチングアプリの規約を確認したところ、いずれもビジネスの勧誘を禁止していました。あるアプリはヘルプページの「禁止行為」に、次の項目を挙げています。

マルチ商法・ネットワークビジネス・アフィリエイト等、ビジネスへの勧誘

別のアプリは、利用規約で「商業活動に関連するもの(販売、コンテスト、雇用または投資機会、プロモーション、広告、サービスの勧誘……)」の共有を禁止しています。

もう1件も、利用規約で「当社が事前に許諾しない本サービス上での宣伝、広告、勧誘または営業行為」を禁止しています。

🔍CHECK

規約違反は、それだけで法律違反になるわけではありません。 ただ、マッチングアプリは「出会いを求めている人どうし」という前提で使う場所です。 そこでビジネスの話をするのは、利用者全員が守っている約束を破っているということです。

消費者庁が公表した実例(2026年6月)

消費者庁は2026年6月12日、マッチングアプリをきっかけにした勧誘について注意喚起を出しました。流れはこうです。

段階 消費者庁の公表内容
出会い 主に大学生などが、年上の経営者を名乗る人とアプリで知り合う
会う 挫折から成功した話や、将来の夢の話をされる。「数百万円必要」などと答えると、「営業の仕事を学んだ場所があるので、紹介してもいい」
面談 紹介された事業者と、勧誘者の同席のもとで面談。仕事を始めるためとして50万円〜150万円を当日中に払うよう求められる
支払い ためらうと、消費者金融での借入れを勧められる。職業や年収を偽るよう指示された人もいた
その後 研修のあと、自分もマッチングアプリで同じように勧誘するよう誘導される。収入は得られず、借金が残る

消費者庁は、勧誘者についてこう書いています。

勧誘者は、本件事業者の関係者であり、勧誘目的を隠して消費者に接触していました。また、勧誘者の中には、年齢、職業、年収等を偽っている者もおり、マッチングアプリ事業者に対し、虚偽の身分証や源泉徴収票を提出していた事例も確認しています。 (消費者庁 注意喚起・令和8年6月12日)

そして、入ったあとに待っているものについても書いています。

このような行為を実施すると、消費者自身が加害者になるリスクもあります。 (同)

⚠️ この事例で消費者庁が確認したとしているのは「断定的判断の提供」です。消費者庁は、マルチ商法などに当たる場合はクーリング・オフができる、とも案内しています。

国民生活センターにも、同じ入口の相談が寄せられています。

マッチングアプリで知り合った女性にセミナーへ連れていかれた。このセミナーを人に紹介するとお金がもらえるという。断り切れずにセミナーの契約をしてしまった。 (国民生活センター「マルチ取引」)

目的を隠す理由は、ひとつしかありません

ここからは、当サイトの見方です。

法律が「最初に言え」と義務づけているのは、消費者庁の言葉でいえば、相手が勧誘を受けるか断るかを判断する最初の機会を守るためです。

それを隠すということは、最初に言えば断られると、誘う側が分かっているということです。

  • 商品に自信があるなら、最初に会社名と商品を言えば済みます
  • もうかる仕組みなら、最初に「こういう仕事の話がある」と言えば済みます
  • それができないから、「勧誘じゃない」「会わせたい人がいるだけ」と言います

💰実際は

最初の約束を破って近づいてくる人の、次の約束を信じる理由はありません。 「勧誘じゃない」と言った人が、会ってから言う「必ずもうかる」「誰でもできる」を、信じられるでしょうか。 入口で嘘をつく話は、中身を聞く前に断ってかまいません。

公平に書いておきます

  • マルチ商法そのものは、禁止されてはいません。 最初に会社名・目的・商品を告げて誘ってくる人は、少なくとも法律の入口のルールは守っています。その場合は、「ねずみ講じゃないから、合法です」は本当?の質問で中身を判断してください
  • 誘ってくる友人も、同じ説明を受けて入った人であることが多いです。悪意がなく、本気で良い話だと思っている場合もあります
  • ただし、悪意があるかどうかと、法律の義務を守っているかどうかは別の話です。目的を隠した時点で、義務には反しています
  • この記事は特定の会社を指したものではありません

誘われたら、こうする

図解② 誘われたときの行動

会う前に

「何の会社の、何の話?」と聞く。誘う時点で告げる義務があります

▼

会って、話が出たら

「勧誘じゃない」と言われていたなら、その場で帰る。理由は言わなくてかまいません

▼

移動を求められたら

事務所・部屋・カラオケ・貸切の店には付いていかない

▼

アプリなら

運営に違反報告をする

▼

契約してしまったら

書面を受け取ってから20日以内ならクーリング・オフ。迷ったら188

契約してしまった場合に使える制度

制度 内容 根拠
クーリング・オフ 契約書面を受け取った日(商品の引渡しが後ならその日)から20日以内なら、理由なく解除できる。違約金はかからない 特定商取引法 第40条
取消し(目的を隠して連れていかれた) 勧誘することを告げずに、自分から帰るのが難しい場所に(事業者がそれを知りながら)連れていかれ、そこで勧誘されて困惑して契約した場合 消費者契約法 第4条第3項第3号
取消し(好意につけ込まれた) 社会経験が乏しいことから相手に好意を抱き、相手も同じ気持ちだと思い込んでいるのに乗じて、「契約しなければ関係が終わる」と告げられて契約した場合 消費者契約法 第4条第3項第6号

消費者契約法の取消しは、追認できる時(困った状態から抜け出した時)から1年、契約から5年以内です(第7条)。どの制度が使えるかは事情によって変わるので、消費者ホットライン188(最寄りの消費生活センターにつながります)に相談してください。

クーリング・オフの手順は「クーリング・オフの使い方」に、マルチ商法の中途解約と返品は「ねずみ講じゃないから、合法です」は本当?にまとめています。

⚠️ここに注意

「お金がないなら借りればいい」と言われたら、その場で終わりにしてください。 消費者庁の事例では、その日のうちに複数の消費者金融から借りさせ、コンビニで現金を引き出させていました。 当日中の支払いを求める話は、考える時間を与えたくない話です。

まとめ

「勧誘とかじゃないから安心して。ただ、会わせたい人がいるんだ」

  • 🔴 マルチ商法では、誘う側は勧誘に先立って、会社名・勧誘が目的であること・商品の種類を告げる義務があります(特定商取引法 第33条の2)
  • 消費者庁の解釈では、「先立って」は誘った時点。会ってから言えばいい、ではありません
  • 「紹介するだけ」と言う友人も、勧誘者として同じ義務を負うのが一般的です
  • 🔴 目的を告げずに電話やSNSのメッセージで呼び出し、事務所・自宅・カラオケ・貸切の店で勧誘すれば、3年以下の拘禁刑などの対象です(第34条第4項・第70条)。カフェで始めても、移動した時点で対象です
  • 2021〜2025年度に連鎖販売取引で処分された16社のうち、15社の処分理由にこの告知義務の違反が入っていました(当サイト集計)
  • 当サイトが確認したマッチングアプリの規約(3件)は、いずれもビジネスの勧誘を禁止していました。消費者庁は2026年6月、アプリで目的を隠して近づき、入ったあとは同じ方法で勧誘させる事例を公表しました
  • 目的を隠すのは、最初に言えば断られると分かっているからです(当サイトの見方)
  • 契約してしまったら、20日以内のクーリング・オフ、条件によって消費者契約法の取消し。迷ったら188

誘われたら、会う前にこう聞いてください。

「何の会社の、何の話?」


マルチ商法の仕組みとやめ方は「ねずみ講じゃないから、合法です」は本当?、SNSで知り合った人からの投資の誘いは「先生の言うとおりにすれば、必ずもうかります」は本当?、誘いに近づかない考え方は「話を聞くだけでもどうですか」は本当?にまとめています。

📋 契約前にここを確認

  • 会う前に、会社名・何の話か・何を売るのかを告げられましたか?
  • 「勧誘じゃない」と言われたのに、会ってから仕事やもうけ話が出てきませんでしたか?
  • 途中で、事務所・誰かの部屋・カラオケ・貸切の店に移ろうとしていませんか?
  • マッチングアプリで知り合った相手が、将来の夢や収入の話ばかりしていませんか?
  • 「紹介したい人がいる」と言われて、初対面の第三者が同席していませんか?
  • その日のうちに払うように、借金をしてでも払うように言われていませんか?
  • 契約書面を受け取ってから、20日たっていませんか?

参照した情報源

  1. e-Gov 特定商取引に関する法律 第3条・第33条の2(氏名等の明示)・第34条(禁止行為)・第40条(クーリング・オフ)・第70条(罰則)
  2. e-Gov 特定商取引に関する法律施行令 第5条(勧誘目的を告げない誘引方法)
  3. 消費者庁「特定商取引に関する法律等の施行について」(令和6年11月19日・通達)
  4. 消費者庁「特定商取引法ガイド 連鎖販売取引」
  5. 消費者庁「特定商取引法ガイド 執行事例の検索」(取引類型=連鎖販売取引、処分日2021年4月1日〜2026年3月31日で検索)
  6. 消費者庁「マッチングアプリをきっかけに、コンサルティング契約の勧誘をし、消費者金融業者での高額な借入れをさせて支払わせる事業者に関する注意喚起」(令和8年6月12日)
  7. 国民生活センター「マルチ取引(各種相談の件数や傾向)」
  8. e-Gov 消費者契約法 第4条第3項(困惑による取消し)・第7条(取消権の行使期間)
  9. マッチングアプリ with ヘルプ「安心してご利用頂くために」(禁止行為)
  10. Tinder 利用規約(2026年3月1日発効)2d. 禁止コンテンツ
  11. マッチアップ 利用規約 第6条(禁止事項)

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