🛡️ 保険

「国の年金は破綻します」は本当? 破綻はしません。水準は下がります

🗣️営業トーク

「少子化ですから、国の年金はいずれ破綻します。自分で準備しておかないと危ないですよ」

結論

公的年金は「保険料に上限を固定して、足りなくなったら給付水準を自動で下げる」設計です。給付を下げて均衡させる仕組みが法律に書かれているので、破綻という結果は出ません。制度が立たなくなるのは、税も保険料も集まらなくなるときで、それは国が立たなくなるときです。ただし水準は下がります。所得代替率は2024年度の61.2%から、経済前提によって57.6%〜50.4%程度まで下がる見通しです。下がるのは主に基礎年金のほうで、厚生年金の報酬比例部分はほとんど調整されません。破綻と水準低下は、別の話です。

老後の話になると、よく出てきます。

「少子化ですから、国の年金はいずれ破綻します」

「自分で準備しておかないと危ないですよ」

前半と後半は、別の話です。そして前半は、制度の作りを見ると成り立ちません。

ただし「もらえる水準は下がる」のほうは、事実です。順に見ます。

先に結論

この記事の結論

年金の設計は

保険料に上限を固定して、足りなければ給付水準を自動で下げる

▼

だから

破綻という結果は出ません。下げて均衡させる仕組みが法律にあります

▼

ただし水準は下がる

所得代替率61.2%(2024年度)→ 57.6%〜50.4%程度の見通し

▼

下がるのは

主に基礎年金。厚生年金の報酬比例部分はほとんど調整されません

▼

分けること

「破綻」と「水準低下」は別。すり替えられるのはここです

🔴 破綻しない理由は、制度の設計そのものです

まず、公的年金がどう作られているか。2004(平成16)年の改正で、いまの枠組みになりました。

○ 上限を固定した上での保険料の引上げ (最終保険料(率)は国民年金17,000円(2004年度価格)、厚生年金18.3%) ○ 負担の範囲内で給付水準を自動調整する仕組み(マクロ経済スライド)の導入 ○ 積立金の活用(おおむね100年間で財政均衡を図る方式とし……) ○ 基礎年金国庫負担の2分の1への引上げ (厚生労働省「令和6(2024)年財政検証結果の概要」)

1行目と2行目を並べて読んでください。

図解① なぜ「破綻」という結果が出ないのか

保険料は

上限が固定されています(厚生年金18.3%)。これ以上は上げません

▼

足りなくなったら

給付水準を自動で下げます(マクロ経済スライド)

▼

つまり

収入に合わせて支出を切る設計。だから収支は合い続けます

法律にも、そう書かれています。

政府は……国民年金事業の財政が……当該財政均衡期間にわたつてその均衡を保つことができないと見込まれる場合には、年金たる給付……の額……を調整するものとし、政令で、給付額を調整する期間……の開始年度を定めるものとする。 (国民年金法 第16条の2)

「均衡を保てないと見込まれる場合には、給付額を調整する」。 これが条文です。

💰実際は

破綻しないのではなく、「破綻という形を取らない」設計です。 足りなくなったら、倒れるのではなく、下がります。 だから「破綻する」と言われたとき、それは制度が消える話なのか、水準が下がる話なのかを分ける必要があります。

財政検証は、法律上の義務です

政府は、少なくとも五年ごとに……国民年金事業の財政に係る収支についてその現況及び財政均衡期間における見通し……を作成しなければならない。 2 前項の財政均衡期間……は、財政の現況及び見通しが作成される年以降おおむね百年間とする。 (国民年金法 第4条の3)

5年ごとに100年先まで検証して公表する義務があります。直近は2024年7月の公表です。

支えているのは、保険料だけではありません

基礎年金の半分は税金です(国庫負担2分の1)。そして積立金があります。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)
運用資産額 317兆7,596億円(2026年度第1四半期末)
市場運用開始以降(2001年度〜)の累積収益額 +221兆201億円
同・収益率 年率+4.95%

(GPIF「2026年度の運用状況」)

317兆円(年金積立金の運用資産額)

保険料・税金・積立金の3本で支えています。 この3つが同時に集まらなくなるのは、国が立たなくなるときです。

📝補足

「日本が破綻したらどうする」という問いは成り立ちます。 ただそのときは、年金だけでなく預金も国債も保険会社も無事ではありません。 年金だけを心配して民間の商品に移しても、そのリスクは消えません。

🔴 ただし、水準は下がります

ここは事実です。営業トークの前半は間違っていますが、心配そのものは的を射ています。

給付水準は所得代替率で見ます。

所得代替率 =(夫婦2人の基礎年金 + 夫の厚生年金)/ 現役男子の平均手取り収入額 2024年度:61.2% 13.4万円+9.2万円/37.0万円 (同・財政検証結果の概要)

そして将来の見通しです。経済前提ごとに4つのケースが示されています。

ケース 将来の所得代替率 調整終了年度 うち基礎年金 うち報酬比例
(現在・2024年度) 61.2% — 36.2% 25.0%
高成長実現 56.9% 2039 31.9% 25.0%(調整なし)
成長型経済移行・継続 57.6% 2037 32.6% 25.0%(調整なし)
過去30年投影 50.4% 2057 25.5% 24.9%
1人当たりゼロ成長 (50%を確保できない) — — —

(同・人口は中位推計)

図解② 下がるのは、主に基礎年金です

基礎年金

36.2% → 31.9%〜25.5%。ここが大きく下がります

▼

報酬比例(厚生年金)

25.0% → 25.0%。多くのケースで「調整なし」です

▼

だから

影響が大きいのは基礎年金しかない人(自営業・フリーランス・第3号)です

「年金が減る」の中身は、これです。 全員が同じだけ減るわけではありません。

最悪のケースでも、ゼロにはなりません

いちばん厳しい「1人当たりゼロ成長ケース」について、資料はこう書いています。

機械的に給付水準調整を続けると、国民年金は2059年度に積立金がなくなり完全な賦課方式に移行。その後、保険料と国庫負担で賄うことのできる給付水準は、所得代替率37%〜33%程度 (同)

積立金が尽きても、保険料と税で33〜37%は出るという計算です。これは「破綻」ではありません。 大幅な水準低下です。

⚠️ここに注意

33〜37%は、軽い数字ではありません。 いまの61.2%の半分強です。「破綻しない」は「安心していい」とは違います。

🔴 「もらえる額が減る」の、正確な意味

ここが、営業トークで最もすり替えられるところです。

名目の金額は、上がっています。

令和7年度 令和8年度
国民年金(老齢基礎年金・満額1人分) 69,308円 70,608円(+1,300円)
厚生年金(夫婦2人分の基礎年金を含む標準的な年金額) 232,784円 237,279円(+4,495円)

(厚生労働省「令和8年度の年金額改定について」・2026年1月23日公表。基礎年金1.9%、報酬比例2.0%の引上げ)

図解③ 2つの「減る」を分ける

名目の金額

物価や賃金に連動して上がります。2026年度も+1.9%/+2.0%

▼

所得代替率

下がります。現役世代の手取りの伸びに、年金の伸びが追いつかないため

▼

正確に言うと

「金額が減る」ではなく「現役世代に比べた水準が下がる」です

マクロ経済スライドは、年金額を減らす仕組みではありません。 物価や賃金が上がったときに、上げ幅を小さく抑える仕組みです。だから名目額は下がりにくく、実質的な水準がじりじり下がります。

🔍CHECK

「年金が減る」と言われたら、この一問です。 「金額が減るんですか。それとも現役世代に比べた比率ですか」 答えが区別できていないなら、その人は制度の話をしていません。

2025年に、法律で対策が入りました

基礎年金が大きく下がるという2024年の検証結果を受けて、2025年の年金制度改正法に規定が追加されました。

※国会における審議の中で、今後の社会経済情勢を見極めた上で、基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合に、基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドを同時に終了させる措置を講じる旨の規定が追加されました。 マクロ経済スライド同時終了は、次回財政検証(2029年)の結果を踏まえて基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合に実施。 (厚生労働省「年金制度改正法の主な改正内容」)

基礎年金の調整を早く止めるという方向です。制度は、見通しが悪ければ手を入れられます。 これも「破綻しない」ことの一部です。

⚠️ ただし実施は2029年の財政検証の結果次第で、内容が確定しているわけではありません。

🔴 ここから、営業トークになります

「破綻する」の次に来るのは、たいていこれです。

🗣️営業トーク

だから、自分で年金を作っておきましょう。こちらの個人年金なら確実です

🔍CHECK

確かめるのは、ここです。 「年金の水準が下がる理由」と、「その商品が持っている性質」が噛み合っているか。

減る理由と、同じ理由で目減りする商品

年金の水準が下がる理由は、少子高齢化と、物価・賃金の上昇に給付が追いつかないことです。

では、公的年金と定額の個人年金を、構造で並べます。

公的年金 個人年金(定額型)
受取期間 終身 確定年金(10年など)が多い。終身型もある
物価・賃金 連動して改定される(マクロ経済スライドで抑制はされる) 契約時の利率で固定
障害になったとき 障害年金 なし(特約次第)
亡くなったとき 遺族年金 なし(特約次第)
財源 保険料+税(基礎年金は2分の1)+積立金 自分の払った保険料

図解④ 噛み合っているか

年金が目減りする理由の一つ

物価や賃金の上昇に、給付の伸びが追いつかないこと

▼

定額の個人年金は

契約時の利率で固定されます。物価が上がっても増えません

▼

つまり

目減りする理由と同じ理由で目減りする商品で埋めようとしていることになります

これは「その商品が悪い」という話ではありません。 金額が確定していることには、それ自体の価値があります。ただ、心配の中身と、商品の性質が合っているかは別の問題です。

予定利率の読み方は「予定利率1%の商品です」は、あなたのお金が1%増えるという意味ではありません、税制優遇の計算は「個人年金は税金の控除があるからお得」は本当?にまとめています。

では、何を見ればいいのか

商品の前に、確かめられることがあります。

図解⑤ 順番

① 自分の見込額を見る

ねんきん定期便・ねんきんネット。一般論ではなく自分の数字が出ます

▼

② 厚生年金に入れるか

報酬比例部分はほとんど調整されません。加入期間が効きます

▼

③ 受け取り方を確かめる

繰下げという選択肢があります。増額されて終身で続きます

▼

④ そのうえで

足りない分をどうするか。ここで初めて商品の話になります

②は制度が動いています。2026年10月1日から、短時間労働者の厚生年金加入の賃金要件(月8.8万円)が撤廃されます。週20時間以上働いていれば、年収に関係なく加入する形に変わります。詳しくは「扶養を外れると損しますよ」は本当?に書きました。

📝補足

この記事では「何を買うべきか」は書きません。 制度の中身と、商品の性質を並べるところまでです。 判断材料が揃っていない状態で決めさせるのが、営業の手口だからです。

聞かれたときに確認する4つ

図解⑥ 「破綻します」と言われたら

①

「制度が消える話ですか、水準が下がる話ですか」

▼

②

「私の所得代替率は、いくらからいくらになる見通しですか」

▼

③

その商品は物価が上がったら増えますか

▼

④

終身ですか。何年で受け取り終わりますか

①で言葉に詰まるなら、それが答えです。 財政検証は5年ごとに公表されていて、誰でも読めます。「破綻します」と言う人が、それを読んでいるかどうかは、この一問で分かります。

まとめ

「国の年金は破綻します」

  • 公的年金は保険料に上限を固定し、足りなければ給付水準を自動で下げる設計です(2004年改正)
  • 法律に「均衡を保てないと見込まれる場合には、給付額を調整する」と書かれています(国民年金法16条の2)
  • 財政検証は5年ごと・100年先までが法律上の義務(同4条の3)。直近は2024年7月公表
  • 財源は保険料+税(基礎年金は2分の1)+積立金317兆円。3つ同時に集まらなくなるのは、国が立たなくなるときです
  • 🔴 ただし水準は下がります。 所得代替率は61.2%(2024年度)→ 57.6%〜50.4%の見通し
  • 🔴 下がるのは主に基礎年金(36.2%→31.9〜25.5%)。報酬比例部分は多くのケースで「調整なし」
  • 最悪のケースでも、積立金が尽きた後保険料と税で33〜37%程度は出る計算です。ゼロにはなりません
  • 🔴 名目額は上がっています。 2026年度は基礎年金+1.9%、報酬比例+2.0%
  • 下がるのは現役世代の手取りに対する比率です。「金額が減る」とは違います
  • 2025年の改正で、基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドを同時に終了させる規定が追加されました(実施は2029年の財政検証次第)
  • 定額の個人年金は契約時の利率で固定です。年金が目減りする理由の一つと、同じ理由で目減りします

聞かれたときに確かめるのは、この一問です。

「制度が消える話ですか。水準が下がる話ですか」

そして、自分に確かめる一問です。

「私の見込額は、いくらですか」

一般論ではなく、自分の数字から始めることです。


公的な保障の全体像は「公的保障だけでは足りません」は本当?、老後資金の金額の話は「老後に2,000万円必要です」は本当?、置き場所の制度はiDeCoとNISA、どちらを先に使う?にまとめています。

📋 契約前にここを確認

  • 「破綻」と言われたとき、それは制度が消える話ですか、水準が下がる話ですか?
  • 下がるのは「もらえる金額」ですか、「現役世代の手取りに対する比率」ですか?
  • 勧められた商品の利率は何%ですか。物価が上がったら増えますか?
  • その商品は終身ですか、期間が決まっていますか?
  • 障害になったとき、亡くなったときの保障はありますか?
  • ねんきん定期便で、自分の見込額を確認しましたか?

参照した情報源

  1. 厚生労働省「令和6(2024)年財政検証結果の概要」(第16回社会保障審議会年金部会 資料1・所得代替率61.2%とケース別見通し)
  2. 厚生労働省「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」
  3. e-Gov 国民年金法 第4条の3(財政の現況及び見通しの作成・財政均衡期間はおおむね100年)・第16条の2(調整期間)・第85条(国庫負担)
  4. 厚生労働省「年金制度改正法の主な改正内容」(2025年6月・基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドの同時終了)
  5. 厚生労働省「令和8年度の年金額改定について」(2026年1月23日・基礎年金1.9%/報酬比例2.0%の引上げ)
  6. 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)「2026年度の運用状況」(市場運用開始以降の累積収益額と運用資産額)

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